ニュースレター No,47

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図1ラウリー博士が発見した染色体の組み替え図2イマチニブの作用メカニズムATP転座Bcr細胞が異常増殖し続けるATPが結合Abl22番染色体フィラデルフィア染色体BCR-ABLキナーゼイマチニブ細胞の増殖が止まる9番染色体9....

図1ラウリー博士が発見した染色体の組み替え図2イマチニブの作用メカニズムATP転座Bcr細胞が異常増殖し続けるATPが結合Abl22番染色体フィラデルフィア染色体BCR-ABLキナーゼイマチニブ細胞の増殖が止まる9番染色体9番染色体慢性骨髄性白血病の多くの患者では9番染色体と22番染色体の組み替えが起こっている。その結果、Abl遺伝子とBcr遺伝子が融合し、BCR-ABLキナーゼが生成される。イマチニブが結合BCR-ABLキナーゼはシグナル伝達物質なしでもATPの結合により細胞に際限のない増殖を引き起こす。イマチニブはATP結合部位に結合することで過程を阻害する。の一部を担っています。そのため、1980代の始めには、がん研究者の多くが「暴走したチロシンキナーゼが細胞のがん化を引き起こす」と考え始めるようになりました。米国ボストンにあるダナ・ファーバー癌研究所でがん研究者としての一歩を踏み出していたブライアン・ドラッカー博士もその一人でした。研究テーマをCMLに絞り込んだドラッカー博士は、Bcr-Abl遺伝子の働きを阻害する医薬品の開発に取り組みました。この頃、チロシンキナーゼに作用する物質研究が進んでいた製薬企業、チバガイギー社(現ノバルティス社)のニコラス・ライドン博士も同様の考えを持っていました。当時の抗がん剤は腫瘍の縮小効果はあるものの正常な細胞にもダメージを与えるものがほとんどでした。CML患者にだけ存在する遺伝子の働きを阻害すれば、副作用の少ない医薬品の開発につながると考えたのです。標的分子に狙いを定めて特異的に働く治療薬を開発するという新しい創薬の手法の誕生です。しかし、課題はたくさんありました。ヒトの体内には90種類以上のチロシンキナーゼが存在します。他のチロシンキナーゼに影響を与えれば、重大な副作用となる可能性があるのです。1986年にライドン博士は、社内にチロシンキナーゼ抑制剤プログラムを設立、ドラッカー博士が提供するチロシンキナーゼ研究のための試薬を用いながら有効な作用を持つ物質の探索を続けました。その後、ドラッカー博士は、1993年に自らラボを設立し、ライドン博士らの研究チームが発見した化合物の臨床応用を視野に入れた研究を開始しました。そして、ドラッカー博士とライドン博士は1996年に論文を発表し、新規化合物イマチニブがBcr-Abl遺伝子を持つ培養細胞のみを殺す作用があることを示しました。分子標的薬の進歩が難治性疾患の治療に道を開くドラッカー博士とライドン博士が発表した論文は、すぐにがん研究者の高い注目を集めました。イマチニブは、ノバルティス社によって1998年に臨床試験が開始され、Bcr-Abl遺伝子の働きを阻害し、慢性期CMLに対する画期的な治療効果と安全性が確認されました。そして、イマチニブ(商品名:グリベック)は、2001年5月に米国で、同年11月に日本で承認されました。現在では、イマチニブの分子レベルの詳細な作用機序も明らかになっています。本来、チロシンキナーゼが外部からの刺激を受けると活性化し、ATP(アデノシン三リン酸)が結びつくことで細胞核に増殖指令を送ります。それに対してBCR-ABLタンパク質は恒常的に活性化されており、ATPと結合し細胞を無秩序に増殖(がん化)させるのです。イマチニブは、BCR-ABLタンパク質にあるATP結合部位に結びつくことで、ATPがそこに結合出来なくなると考えられています。その結果、細胞増殖シグナルが伝わらなくなり、CML細胞の増殖が抑えられます。慢性骨髄性白血病は、世界で年間4万人が発症する病気です。かつては急性転化すると治療法のほとんどない病気でしたが、ラウリー博士、ドラッカー博士、ライドン博士の研究がもたらした分子標的薬イマチニブの登場によって急性転化を抑制することができるようになりました。分子標的薬にはイマチニブのような低分子化合物と抗体医薬があり、今ではがん自己免疫疾患など難治疾患の治療薬開発の中心となっています。02