Japan Prize Laureates

Laureates of the Japan Prize

1990 Japan Prize受賞者

  • 授賞対象分野
    地球科学
  • 授賞業績
    プレートテクトニクスの創始とその発展に対する貢献

【業績解説文】

業績画像
ウィリアム・ジェイソン・モーガン博士

ウィリアム・ジェイソン・モーガン博士

プリンストン大学教授

  • 国籍:米国
  • 生年月日:1935年
ダン・ピーター・マッケンジー博士

ダン・ピーター・マッケンジー博士

ケンブリッジ大学教授

  • 国籍:イギリス
  • 生年月日:1942年
ザビエル・ルピション博士

ザビエル・ルピション博士

エコール・ノルマール・シューペリエール教授

  • 国籍:フランス
  • 生年月日:1937年

授賞理由

 近年、地球科学諸分野の進展には著しいものがある。とりわけプレートテクトニクス・モデルの提唱は、固体地球科学に革命的な進歩をもたらした。モーガン、マッケンジー、及びルピションの3博士は、殆ど同時に、プレートテクトニクスを創始し、その後もそれぞれ独立にあるいは共同してモデルの展開に多大の貢献をした。プレートテクトニクスは、地球表層部で起こる地学諸現象について、初めて統一的かつ全地球的な観点からの合理的な解釈を可能にし、それ以後の固体地球科学諸分野の研究の指針となった。その骨子は、地球表層部が比較的少数のほぼ剛体的に振舞うプレート(板状の岩盤)でおおわれており、各プレートが1年に数cmの速度で絶えず水平に運動をしているというものである。そして、地震活動や火山噴火あるいは造山運動などの主要な地学現象は、プレート間の相対的運動の結果としてプレート境界付近で起こることが明らかになった。プレートテクトニクスに基づくこの新しい地球観はそれまでの地球観を根底からくつがえし、固体地球科学及び関連分野に大きな衝撃を与えた。プレートテクトニクスはまた、エネルギー資源や鉱物資源の探査、あるいは地震及び火山噴火予知等の社会的に重要な分野の進歩にも貢献している。

 モーガン博士は、地震発生のときの断層面のずれの向き、トランスフォーム断層の方向及び海底の地磁気の縞模様等を総合して、地球表面を約20個のプレートに分割し、それらのプレートの運動の解析を試みた。そしてプレートの相対的運動からプレートが剛体的に地球表面に沿って回転運動していることを明らかにした。同博士はまた、ホットスポット(マントル深部から高温物質が上昇してくる点)が固定されているという考えに基づき各プレートの絶対的運動を決定した。この研究により、海嶺、沈み込み帯、トランスフォーム断層等がプレートの運動によって統一的に説明されることが示され、プレートの考えの重要さが広く認識され、この考えに基づく研究がその後爆発的に発展するきっかけとなった。

 マッケンジー博士は、環太平洋地域の地震の発震機構の解析を行い、北米大陸や東アジアに対して太平洋の海底が1枚の板として回転運動していることを明瞭に示した。また、同博士はモーガン博士とともに3つのプレートが会合する三重点の幾何学的解析を行い、プレート相互間の運動の理解を深めるとともにその後のプレート運動の原動力の解明の研究への道を開いた。同博士はまた、石油や天然ガス資源の成因と重要な大規模な堆積盆地の形成が、プレートの運動により地殻が薄くなり沈降するためであるという画期的なモデルを提唱した。さらに同博士は、プレート運動とマントルの熱輸送に対するマントル対流の役割、及び上部マントルにおけるマグマの移動や海嶺における玄武岩マグマの成因等の問題についても重要な研究を行った。

 ルピション博士は、モーガン博士の考えに触発され、地磁気の縞模様の幅から推定されるプレート拡大速度の分布とトランスフォーム断層の方向を用いて独立にプレートの相対運動を全地球にわたり解析した。すなわち、海嶺での拡大に伴うプレート運動の角速度を求め、それに基づき地球表面の6つの主要プレートの相対運動を定量的に求めた。計算結果は、日本海溝で太平洋プレートが沈み込む速度が1年8-9cmであることやインドやユーラシア大陸が5-6cmで短縮されつつあることなどを示しており、これまで観測されてきた地学現象が見事に説明された。同博士はまたプレートテクトニクスの著者を著わし、世界の多くの研究者に対して大きな影響を与えた。さらに同博士は深海潜水艇による海嶺や海溝などのプレート境界の調査を行いその点でも大きな貢献をした。

 プレートテクトニクスが生まれたのは突発的なことではない。ウェーゲナーによる大陸移動説やその後に続くマントル対流論及び海洋底拡大説、またそれらの説の基礎となった古地磁気の測定や海底の調査・観測、とくに海嶺や海底の地磁気の縞模様の発見、トランスフォーム断層の提唱などの業績の上に生まれたものである。しかし上記の3博士によるプレートの概念の提出及びプレートの球面運動の実証、さらにそれによって地球表層の地学現象が全地球的にしかも統一的に説明されたことはまさに画期的なことであり、近代地球科学の歴史の上で最も重要な業績といって差し支えない。

 モーガン、マッケンジー、ルピションの3博士はプレートテクトニクスを創始するという重要な業績をおさめ、地球科学及び関連分野の研究の発展に大きな貢献をしたのみならず。その後も先鋭的な研究によって世界の地球科学者のリーダーとして活動している。人類が生存する地球の諸現象を統一的に解き明かしたプレートテクトニクス理論は、地球科学のみでなく人類社会に対しても大きな影響を与えたといって差し支えない。

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