歴代受賞者

1991年(第7回)日本国際賞受賞者

応用数学分野
分布定数系の解析と制御の研究、並びに応用解析学の振興

 

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ジャック-ルイ リオンス博士 (フランス)

コレージュ・ド・フランス教授
フランス国立宇宙研究センター総裁
1928-2001
授賞理由

 最近の応用数学は、コンピータの活用による数値的方法の進歩により、工学および応用科学に広くかつ本格的に用いられ、実際問題に対する貢献も多大なものがある。

 実際、現代の応用数学の範囲は極めて広汎であるが、今回の応用数学における日本国際賞については、候補者の推薦を求める段階および受賞者の選考に当たり、実際問題への応用において著しい成果をもたらした解析的・数値的な方法の進歩発展に対する優れた業績に焦点がおかれた。

 リオンス博士に今回の賞を贈呈することにいたったのは、上に述べました見地から、分布定数系の解析および制御に関するリオンス博士の先駆的かつ独創的な研究成果、および、解析学と科学計算を基盤とする応用解析学を形成発展させ、現代の応用科学・工学の期待に応え得る隆盛に導いた同博士の功績を併せて評価したものである。

 現在、リオンス博士はコレージュ・ド・フランスにおいてシステムの解析と制御の講座を担当する一方でフランス国立宇宙研究センター(CNES)の総裁を兼ねている。なお、同博士は、1980年から1984年までフランス国立情報・自動化研究所(INRIA)の初代の所長を務めた。

 実は、リオンス博士は解析学を専門とする純粋数学者として学者のキャリアを踏み出し、発展方程式、非同次境界値問題、補間空間等に関して顕著な業績をあげ、若くして世界的な名声を博した。

 しかしながら、リオンス博士は、今世紀後半に入って威力を増したコンピータが提供する科学計算の可能性を応用科学・工学において活かすためには、新しい応用数学の形成が必要であることを、いち早く気づいたのである。

 そうして、このような応用数学の形成を、主として解析学を基盤とする方向においてであるが、リオンス博士は、自身の独創的な研究により先導するだけでなく、応用解析全般にわたって、新分野の提起、方法の開発・改良、人材の育成、フランス国内および国際的な組織化、国際共同研究の開催などの努力を卓抜な先見性と指導力をもって精力的に行い、大きく前進させた。

 伝統的な解析学の遺産を活かしながらコンピータの駆使を前提とする方法の開発・再編を必要とした応用解析学の確立は、リオンス博士によってはじめて成し遂げられたと言えるのである。

 ここでリオンス博士自身が顕著な研究業績を挙げた分野に触れたいと思う。その前に、応用解析学におけるリオンス博士の数多くの具体的な研究は、すべて、確かな理論と応用へのつながりを特徴とするものであることを指摘しておく。

 まず、偏微分方程式の応用に関しては、ナビエ・ストークス方程式を含む数理物理の線形・非線形偏微分方程式、差分法・有限要素法・罰金法等の近似解析の整備と基礎づけ、均質化問題における漸近似的方法などが目立つ。

 ついで、分布定数系と呼ばれる、偏微分方程式で表現される現象の制御の数学的理論は、確率制御のそれを含めて、正にリオンス博士によって枠組みが確定し発展したものである。これは変分不等式をはじめとする精緻な解析の基礎の上に築かれたものであるが、リオンス博士はそれを算法化することにより実際家の利用を容易にするための努力も惜しまなかった。この方面におけるリオンス博士の研究は現在も活発で、複雑な構造物の安定化、厳密可制御性、不足データのもとでの制御におよんでいる。その一部の成果は、1986年に有名なフォン・ノイマン・レクチュアで講演された。また、来るべき地球環境問題の数理面に対して、リオンス博士の方法が重要な役割を果すことが期待されている。

 産業における応用に関しては、育成した一流の研究者を通じ、また、機関・企業に対する自身の継続的な指導により、リオンス博士の寄与には著しいものがあり、フランスでは、たとえば、航空宇宙産業のための計算空気力学、石油技術に関するシミュレイション、エネルギー問題に関する貢献が知られている。

 最後に、応用科学・工学における科学計算と解析を総合しての研究を世界的な規模で鼓舞したこともリオンス博士の特筆すべき功績である。リオンス博士を中心とする数々の研究会は、この方面での当代の最も権威ある研究集会として、日本を含む各国の研究者に機会と刺激を与えたのである。

 以上のように、比肩する者のない深さと広さで、解析的ならびに数値的方法を基盤とする応用数学である応用解析学に貢献したリオンス博士は、応用数学における今回の日本国際賞を贈られるに真にふさわしいのである。

Japan Prize歴代受賞者による社会貢献

受賞者

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