歴代受賞者

1999年(第15回)日本国際賞受賞者

生命科学における分子認識と分子動態分野
ヒト主要組織適合抗原分子群の三次元構造と抗原ペプチド結合機構の解明(共同受賞)

ハーバード大学分子細胞生物学教授
1925年生まれ

ハーバード大学生化学・生物物理学教授
1944 - 2001
授賞理由

 我々の健康の維持には免疫応答系が必須であることは言を待たないが、この免疫応答の理解において最も重要な問題点は、免疫応答がいかにして引き起こされるのかを解明することにある。この問題は、免疫系が関与する難病の制御や、また一方で免疫系を増強することによるがん・感染症などの治療といった医学的な 応用に直結する極めて重要なものである。J. L. Strominger 及びD. C. Wiley 両博士は免疫応答開始機構の根幹を握る、ヒト主要組織適合抗原(MHC)クラスIびクラスII分子を単離し、それらの三次元構造を解明することによって一気にその機構を明らかにし、免疫学に新しい展開をもたらした。

 適応免疫系においては、Tリンパ球がその抗原受容体(TCR)によって、MHC分子に提示された抗原ペプチドを認識し活性化されることによって、その応答が開始される。このMHCによる抗原の提示は、抗原タンパクがいわゆる抗原提示細胞内で分解され、ペプチドとしてMHC分子に結合し、輸送された後に細胞表面に発現されることによって行われることは知られていたものの、その分子機構、すなわちMHCが如何にしてペプチドを結合するかは未知であった。Strominger博士のグループはこの問題を解決するため、MHCクラスI及びクラスII分子を大量に単離、精製する系を確立した。それらの分子はWiley 博士によって結晶化され、それら分子の三次元構造が初めて明らかにされた。最初に明らかとなったのはクラスI分子の構造であったが、この分子は、βシート構造を底面とし、αヘリック構造で挟まれた溝をその細胞外部分に有しており、その溝(groove)こそが抗原ペプチドを結合する部分であることが明らかになった。しかも、博士らの明らかにした三次元構造は、ペプチドを結合したクラスI分子のそれであり、抗原ペプチドが如何にしてこの溝に結合するのかについても原子レベルでの情報がもたらされ、MHC分子が極めて多様な配列を持つ抗原ペプチドをなぜ結合する事ができるのかについての分子基盤を余すことなく解明した。両博士の研究は引き続いてクラスII分子の構造解明へと展開し、ここにおいてもクラスII分子による、クラスI分子とは異なる、新しい抗原提示のメカニズムが明らかにされた。

 両博士の一連の研究は免疫系における分子認識と、それによって開始される応答の機構を理解する上で不可欠であることは、その後の免疫系における抗原認識の研究が、すべて博士らの研究に基づいて行われていることからも明らかである。このように、両博士の研究は、免疫学の新しい地平線を切り開いたものである。本研究の重要性は、単に基礎研究にとどまらず、慢性関節リウマチなどの自己免疫疾患や様々なアレルギー疾患、そして臓器移植、がん免疫、感染症などの 人為的制御法の研究に対しても、新しい展望を提供したものである。すなわちStrominger, Wiley両博士の研究は生命体における分子認識と分子動態の研究において、その重要性と影響の大きさゆえに特筆される業績である。

 

Japan Prize歴代受賞者による社会貢献

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