ストックホルム国際青年科学セミナー

2017年派遣学生

大塚 美緒子
埼玉大学大学院 理工学研究科
 

 SIYSSに参加して、最も印象深く残ったイベントは、25人の若手研究者で行った倫理セミナーである。倫理セミナーでは、与えられた議題について、あらかじめ割り振られた賛成・反対の立場から意見を述べ、討論を行う。賛成側4人と反対側4人の2つのグループが前に出て討論を進め、残りの17人は全ての討論を聞き終わった後に自由に質問をしたり意見を述べたりする。私は、「AIを用いて裁判を行い、判決を下すのを人間からAIに置き換える」ことについて、賛成側から意見を述べる立場であった。若手研究者という理系の集団の中では、AIの技術的な進歩から将来の応用に対する期待は大きく、賛成派が半分以上を占めていたようにも思える。私は賛成側の第一討論者として議論を始める担当で、「AIを裁判に用いることについて最も重要な点は、感情を抜きにして判決を下すことができるところである。裁判を複雑にしているのは、人間の感情であって、それを抜きにして判決を下すことができれば、より公平で正しい判断を下すことができる」と述べた。その後、反対側、賛成側と一人ずつ討論を行い、議論はAIの技術的な性能を問うことを中心に進んでいったが、反対側のグループの最終討論者によって、議論の流れは一気に変わった。これまで1人1〜2分で討論を進めていったが、彼は一人で10分以上話していたのではないかと思うほどの大演説を行った。彼は、今までの議論の総括を含めてそれぞれの意見について丁寧に例を挙げながら肯定していった。そして、最後に、「確かに感情を抜きにして裁判を行えば正しい判決は下されるかもしれないが、人間というものは感情を持った生き物である」と議論の定義をし直した。そして、「感情を持った生き物だから罪を犯してしまう。だから感情を持った人間が、感情を持った人間に、感情を持って判決を下さなければならないのだ。」と、強く主張した。息継ぎも惜しむほど勢いのあった彼の討論が終わると、賛成側であった私も拍手を送ってしまうほど、その説得力と勢いに圧倒されてしまった。彼の大演説もあり、討論会が終わってもこの議題に対する質疑応答は絶えず、積極的に自分の意見を発言しようとする若手研究者が後を絶たなかった。初めは科学的な視点を重視して進んでいった討論が、最後には倫理的な視点も加わってより多くの視点から一つのテーマを深く熟考することができた。
 この倫理セミナーを通して私が一番に感じたものは、「発信力」の違いであった。若手研究者が行う討論について話しが進むほど、「なるほど」「確かに」と、激しい討論に対して感心するあまり、いつの間にか話を聞く側に回ってしまっていた。しかし、若手研究者の仲間は、発言者の論点に積極的に反応し、自身の意見や疑問点を述べ、全体での思考の共有を行っていた。そして、一人の投げかけた疑問点について全体での解決に努めるように議論が進んでいった。世界から選ばれて集まった若手研究者で行った倫理セミナーは、私が今まで体験した話し合いの中で最も活発な話し合いで、最も勢いのあるものであった。自分の意見を積極的に発信することは自身の今後の課題でもあるが、同時に日本の課題としてもとらえられるように思った。国際的な話し合いの場で、自身の意見を発信し、全体の議論に貢献できるようになるためには、日本の教育システムも大きく関連しているようにも感じた。
 その他、SIYSSのプログラムでは高校生向けに行ったセミナーで自身の研究に関連したプレゼンテーションを行い、高校生の好奇心をかき立てることができた。さらには、ノーベル賞受賞者による講演を聴いて、彼らが自信をもって楽しそうに語る様子からは、究極的な発信力を感じることができた。SIYSS参加を通して感じたことは「発信力」の大切さであり、将来的により発信力を持った人材になりたいと思うと同時に、現時点から自身が発信できることを意識的に発信する事の重要性にも気づかされた。

倫理セミナーの様子

倫理セミナーで使用した椅子

 

SIYSSセミナーでのポスターセッションの様子

 


Japan Prize歴代受賞者による社会貢献

ストックホルム
国際青年科学セミナー

Japan Prize 30年の歩み

page top