2019年派遣学生
![]() 東京大学大学院工学系研究科 |
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SIYSS2019には、19カ国から25名の18~24歳の科学分野で研究を行う各国代表の学生が集まった。SIYSSは、ストックホルムの高校生への研究発表とノーベル賞関連イベントへの参加が主な活動内容であり、特に後者に焦点を当てられる機会が多いように思うが、私にとっては世界から集まった研究熱心な学生と過ごした約1週間という時間そのものが何にも代え難い学びに満ちた時間であった。そこで、初めに他の参加者と過ごし痛感したことを述べたい。 まず驚いたのは、参加者に10代が多く、高校時代から自身で興味ある研究を掘り下げ、プロジェクトを進めていることだった。科学関連のコンテストで優秀な成績を収めた学生が多く、自身の研究の意義、実験計画の立て方、データ処理、今後の方向性など全ての事柄に対し明確な考え方を持っていた。その姿勢は、倫理セミナーにおけるディスカッションでも表れていた。科学技術のもたらすメリットデメリットにきちんと目を向け、自身の意見を英語で流暢に述べる能力が非常に高く、さらに他人の意見にもしっかり耳を傾け意見を取り入れる姿勢には、正直圧倒された。自身の意見を即座にまとめ、恐れずアピールするという議論に必要な能力が自分にいかに足りないかを痛感せざるを得なかった。 また、自身の専門分野外の研究に対しても積極的に知ろうとする好奇心が非常に旺盛で、感受性も豊かで、科学そのものに対する熱意が強く、研究の話をする際に年齢差は全く感じなかった。彼らの魅力的でユニークな研究には私自身大いに刺激を受けた。研究以外の部分でも、異文化の壁を超え交流を深めた。自身を含めバラバラの国から参加する5人で毎日船の上の同部屋で寝泊まりしたり、多岐にわたるアクティビティを参加者全員で行ううちに、たった一週間という短い期間にも関わらず一生物の友達を得ることができたのは、SIYSSならではの体験ではないだろうか。 |
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倫理セミナーにて |
グループでジンジャーブレッドで作品作り |
ノーベル賞関連のイベントでは、医学・生理学賞のプレスコンファレンス、同賞および物理学賞、化学賞、経済学賞のノーベルレクチャー、ノーベルレセプション、ノーベル賞授賞式、ノーベル晩餐会に参加した。 |
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ノーベルレクチャーにて |
プレスコンファレンス後セメンザ博士と一緒に |
ノーベルレセプションは、最も受賞者と触れ合うことができる機会であった。吉野先生には、大学と企業での研究の違い、学生時代に心掛けていたこと、柔軟な思考に必要なことなど、私が今後研究を続けるに当たり直面するであろう課題の解決および自身の今後の成長に繋がるアドバイス等を伺うことができた。ここでは特に印象的だったお言葉を簡潔に紹介したい。 「実験において悪いデータこそ注目すべき」少なからず人間は良いデータに着目しがちであろう。しかし、悪いデータを見つめ直し理由を考えることで新しい道が見えてくる−これは失敗を幾度も重ねた先にリチウムイオン電池の陰極の発見を成し遂げた吉野先生の研究に対する姿勢そのものを表していると感じた。 「外から自分を見つめることが柔軟な発想の原動力」新たな知見をもたらすことは容易でない。従来の発想からなかなか離れられない中、今までにないアイデアを生み出すにはどうしたら良いのか。外から自分を見つめることは、自身の研究過程における立ち位置、状況を把握することである。視点の変換こそが思考の柔軟性を生み出す。 「35歳がターニングポイント」このお言葉は非常に興味深かった。吉野先生自身今回の受賞に繋がる研究成果は33歳の時に成し得たものである。なぜ35歳なのか。それはある程度自分で研究を回せる立場にありながら、若いが故にやり直しが効き、研究に打ち込める年齢だからである。私の場合あと10年ほどしかない。10年はあっという間であるが吉野先生は焦る必要はないと仰った。35歳で爆発できるように今はエネルギーを蓄える時なのだと。 「研究はマラソンと同じ」自分の最終ゴールが定まっていれば、どんな道を辿ってでも向かうべきところには向かえている。マラソンが42.195km先にゴールがあると分かっているからこそ走り続けられるのと同じように、研究も最終目標があるから頑張り続けられる。私は芯の通った人間になりたいと日々思っているが、この芯が吉野先生の仰ることに通じるように感じた。 さらに、医学・生理学賞を受賞したセメンザ博士には、私自身がミクロなスケールでの神経回路網レベルでの脳の研究を行う一方で、実際のマクロなスケールの脳の振る舞いとの間にギャップを感じる問題について相談した。ミクロとマクロの間のギャップの間にある点を繋げていく、それこそが研究であり意識し続けるべきことなのだとアドバイスを受けた。 |
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参加者とコミッティメンバー全員で |
日本代表の石川くんと着物・袴で |
SIYSS最終日に参加したノーベル賞授賞式と晩餐会は、ノーベル賞がいかに特別な賞なのかを感じるイベントであった。授賞式では、ノーベル財団が各賞についてその意義と受賞理由を述べ、受賞者に賞を手渡し、オーケストラによる演奏を挟むという流れで進行していく。ノーベル賞授与の際のファンファーレに続き世界各国から集まった参列者の盛大な拍手が会場全体に響き渡るその様子は、まさに圧巻であり、研究を通し社会に貢献する偉大さを身に染みて体感した。 ストックホルムの高校生への研究発表は非常に為になる経験となった。メインステージではパネルディスカッションや、参加者が4人ずつグループに分かれ、各自の口頭発表と最後にそれぞれの内容確認クイズを合わせたセッションとが終日行われ、メインステージ以外の場ではポスター発表が行われた。口頭発表では比較的大きな舞台でスポットライトを浴びながら、またライブストリームのビデオ撮影をされながら発表するという、初めての体験をした。緊張はいざ本番になると解け、高校生の反応を見ながらスピーチを楽しむことができた。各参加者は自身の発表内容に関連したクイズを用意し、各セッションで最後にまとめてクイズを行うが、私のクイズに多くの学生が正解してくれたのは嬉しかった。ポスター発表でも、高校生が積極的に質問してくれたり、私の研究内容に興味を持ってくれたり、楽しく研究発表をすることができた。専門用語をなるべく使わず、高校生の理解度を測りながら発表した経験は、自身の研究がどう社会に役立つのかアピールすることが不可欠な今後の研究生活でも間違いなく活きるであろう。さらに他の参加者の発表を見て詳しく研究内容を知ることで、互いに刺激し合えたセミナーとなった。 |
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ポスター発表にて |
女性参加者全員とステージの上で |
SIYSSでの約1週間を一言で表すなら、「濃密で刺激的な人々と体験」であろうか。正直しんどい1週間でもあった。積極性も英語での会話能力もアピール能力も最初圧倒されるばかりで、自身に足りないものばかりがひたすら浮き彫りになる感覚に陥っていた。しかし、しんどかった分だけ楽しく充実していたと胸を張って言える。それは、発表を通して自身の研究の面白さに改めて気付いたり、受賞者に対し現在そして今後の研究生活に活かせるアドバイスを直接もらえたり、同年代の各分野各国で活躍する学生と刺激しあえたり、SIYSSに参加したからこその経験を存分に味わえたからである。たった1週間という短期間にも関わらず、得た人間関係や学びは私の今後の人生にとって間違いなく大きいものである。そして普段はるか遠い存在に感じるノーベル賞受賞者の方々からたくさんお話を伺い、こんなにも近い距離で交流できたことは、私にとって非常に貴重な体験であった。 科学分野での研究が社会にもたらすインパクトをSIYSSへの参加を通して改めて認識した。私はこれから研究を通しどう社会に貢献するのか。そのための道筋とすべき努力は何なのか。SIYSSでの経験を通じ、見えてきたこれらの問いへの答えを、実際に行動に移していくのが今後の私の課題である。 最後になりますが、この場をお借りして、このような貴重な体験をさせて頂くにあたりご協力して下さった皆様、そして派遣下さったジャパンプライズに感謝の意を申し上げます。 |
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クリスマスマーケットを背景に |
参加証 |