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プレスリリース

2019年1月16日

2019年(第35回) Japan Prize(日本国際賞) 受賞者決定
らせん高分子を創製する不斉重合の概念を確立し、その成果を光学活性な医薬品等の実用的分離法へと発展させた岡本佳男博士と
食糧安全保障の強化や生物多様性の保全等、数多くの副次的効果をもたらす土壌管理手法を提唱・実践したラタン・ラル博士に

「物質・材料、生産」分野
photo岡本 佳男 博士
「生物生産、生態・環境」分野
photoラタン・ラル 博士

公益財団法人国際科学技術財団(理事長 小宮山 宏)は、本日2019年1月16日(水)、2019年(第35回)Japan Prizeの受賞者を発表しました。本年は「物質・材料、生産」分野と「生物生産、生態・環境」分野を授賞分野として選定し、「物質・材料、生産」分野では岡本佳男博士(日本)が、「生物生産、生態・環境」分野ではラタン・ラル博士(米国)が選ばれました。

「物質・材料、生産」分野の岡本博士は「らせん高分子の精密合成と医薬品等の実用的光学分割材料の開発への先駆的貢献」、「生物生産、生態・環境」分野のラル博士は「食糧安全保障強化と気候変動緩和のための持続的土壌管理手法の確立」がそれぞれ授賞業績となりました。

また、4月には「Japan Prize Week(日本国際賞週間)」と称し、受賞者が来日しての様々な行事が予定されており、4月8日(月)には国立劇場にて授賞式、4月10日(水)には東京大学伊藤国際学術研究センターにて受賞記念講演会を予定しています。受賞者には、授賞式において賞状、賞牌及び賞金5,000万円(各分野)が贈られます。

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岡本 佳男 博士

1941年1月10日生まれ(78歳 日本)
名古屋大学特別招へい教授 / 中国ハルビン工程大学特聘教授

<授賞対象分野>
「物質・材料、生産」

<授賞業績>
らせん高分子の精密合成と医薬品等の実用的光学分割材料の開発への先駆的貢献

<研究概要>
化学組成が同じ分子どうしで、鏡に映した像が左手と右手のように重ね合わせることのできない立体構造をもつものがあります。このような場合、両者は鏡像異性体の関係にあるといいます。鏡像異性体どうしは融点・沸点などの物理的性質は同じですが、人体に対する生理作用が異なる場合があり、医薬品製造などでは大きな問題になり得ます。ところが、通常の化学合成で生成するのは鏡像異性体の混合物です。そこで、触媒を利用して片方だけを合成する技術が進む一方、生成した混合物を分ける利便性の高い分離法が広く使われるようになりました。それを実現させたのがらせん高分子です。一方向巻きのらせん高分子をシリカゲルに吸着させてカラムに充填し、これに混合物を注入すると、らせん高分子に捕捉されやすい一方の鏡像異性体はカラム内に長時間留まり、捕捉されにくいほうは先に流出します。岡本佳男博士は、一方巻きらせん高分子の合成に世界ではじめて成功し、さらにこれが鏡像異性体の分離に活用できることを示しました。実用化した製品は、医薬品・香料・機能性材料などの研究開発や製造に、世界中で広く使われています。高分子合成の基礎から実用に至る岡本博士の業績は、国際的に高く評価されるところです。

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ラタン・ラル 博士

1944年9月5日生まれ(74歳 米国)
オハイオ州立大学 特別栄誉教授 / 炭素管理・隔離センター センター長

<授賞対象分野>
「生物生産、生態・環境」

<授賞業績>
食糧安全保障強化と気候変動緩和のための持続的土壌管理手法の確立

<研究概要>
土壌は、食糧生産だけでなく、炭素隔離、環境浄化、物質循環、生物多様性の維持など環境保全にも重要で幅広い機能をもっています。ラル博士は、アフリカのサブサハラ地域で、「不耕起栽培法」によって、土壌侵食を防ぐとともに生物生産を安定化できることを実証し、その普及に努めました。通常の農業では土壌を耕すのに対し、土壌を耕さないことを基本とする不耕起栽培法は、ラル博士が土壌有機物の流出メカニズムに着目することで確立したものです。この成果を踏まえて、ラル博士は土壌と地球環境問題の関係の研究に歩を進めました。地球規模の炭素循環を解析した結果、土壌を適切に管理すれば、土壌が炭素を隔離し、大気中のCO2を減少させるだけでなく、土壌が肥沃になり食糧生産も向上することを見いだしました。そして、ラル博士は、適切な土壌管理の重要性を国際社会に訴え続けた結果、その理念は、「フォーパーミル・イニシアチブ」という土壌保全の国際的な取り組みとして政策化され、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の推進とも密接に関わっています。

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