歴代受賞者

1994年(第10回記念)日本国際賞受賞者

心理学・精神医学分野
ドパミンの神経伝達物質としての作用と発見と、精神・運動機能とその障害における役割の解明

 

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アーヴィド・カールソン博士(スウェーデン)

イエテボリ大学名誉教授
1923年生まれ
授賞理由

 カールソン博士は、卓越した神経精神薬理学者である。同博士は脳におけるモノアミン、特にドパミンの作用を明らかにしたことで画期的貢献をした。同博士のドパミン研究は1957年、ドパミンの前駆物質であるドパガレセルピンによる運動減退と鎮静を劇的に回復することを発見したことに始まる。この事実から1958年、カールソン博士はドパミンが脳において精神運動活動を亢進させる作用をもつこと。即ち、ドパミンは脳の神経伝達物質であることを初めて明らかにしたものである。ドパミンの運動機能に関する作用の発見は特にパーキンソン病の原因的治療を、精神機能に関するそれは精神治療薬の開発を促し、現在に及んでいる。

 カールソン博士はその後30年余にわたり、ドパミン関連の研究を極めて活発に続けてきた。精神医学の臨床では精神分裂病の治療薬として1952年、神経弛緩薬(抗精神病薬)が開発され用いられたが、その作用機序は不明であった。カールソン博士はリンドクイスト氏と共に1963年、神経弛緩薬の作用機序はドパミン受容体を遮断するためであることを初めて示唆した。これは神経弛緩薬であるクロルプロマジンやハロペリドール投与によりドパミンの代謝が高まることから推定されたものである。この事実に基づいてその後、数多くの抗精神病薬が開発されるとともに、精神分裂病のドパミン仮設が導かれた。

 カールソン博士はヒラルプ博士らとともに1962年、脳におけるドパミン、ノルアドレナリン、セロトニンの分布を最初に報告し、1964年、主要な脳内ドパミン経路である黒質線条体系の存在を最初に報告した。この経路の障害と運動機能との関係は特にパーキンソン病の病態の基本である。

 ドパミンニューロンはそのニューロン自体にあるドパミン受容体によっても機能調節されるが、カールソン博士は1975年これを自己受容体と命名した。その後現在まで薬学者と共同してドパミン自己受容体に親和性の強い作動薬と拮抗薬を合成して調べているが、ドパミン自己受容体遮断薬のうちで中枢刺激作用をもつ薬物を見出した。この薬物は最近、他の科学者により、分子生物学的手法によってドパミン受容体亜型として分離されたD3受容体に結合親和性が高いことが認められた。D3受容体は、認知、情動、内分泌機能と関係の深い大脳辺縁系に高密度に分布している点で注目されているものである。

 カールソン博士は1988年、精神分裂病のドパミン仮設の修正仮設を発表しているが、これでは大脳皮質・線条体・視床・大脳皮質からなるフィードバック回路によって求心性知覚入力が調節されており、精神分裂病ではこの回路に障害があることを想定している。カールソン博士とマリア・カールソン氏はこのフィードバック回路を形成するカテコルアミン系とグルタミン酸系、コリン系ニューロンとの間に相互作用があることを認め、後二者に作用する薬物操作によってシナプス後のドパミン受容体やα2受容体の感受性が劇的に変化することを認めている。この事実は精神分裂病を神経伝達物質不均衡症候群として考える方向性を生み出したものであり、また、パーキンソン病の治療方策へも新しい道を開く可能性を示すものである。

 以上のように、カールソン博士は30年以上にわたり神経精神薬理学の分野において国際的な指導者であり続けて今日に至っている。同博士のドパミン研究における独創性と先見性に富む発見は、最も重篤な脳疾患である精神分裂病とパーキンソン病の病因の理解と治療の発展に大きな貢献をした。

 即ち、カールソン博士は神経精神薬理学の分野から、心理学・精神医学の発展に極めて大きな貢献をしており、その業績は1994年日本国際賞受賞に誠にふさわしいものである。

Japan Prize歴代受賞者による社会貢献

受賞者

Japan Prize 30年の歩み

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