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高松 哲郎

京都府立医科大学大学院医学研究科
教授

光分子イメージングと医療

骨子

  1. はじめに
  2. 蛍光プローブの特徴
  3. 蛍光顕微鏡の基本システム
  4. 共焦点顕微鏡による生体分子イメージング
  5. 蛍光内視鏡を用いた癌診断(5-ALA、自家蛍光)
  6. ラマン散乱顕微鏡による生体組織診断
  7. まとめ

要旨

 めざましい発展を遂げているライフサイエンスを支えているものに、光を用いたイメージング技術があります。この技術によって生きている細胞/組織の中で、ライフサイエンスの基本的情報であるどの分子が何時、何処で、何をしたのかが手に取るように見えるようになりました。30年前では、経過に沿って作成した固定標本を観察し、頭の中で連続した生命現象として理解していたものが、生きた細胞/組織の中で目的の分子の動きが、動画として,場合によっては立体像として観察できるようになってきたのです。それは緑色蛍光蛋白(GFP)に代表される分子を染めるプローブの進歩とレーザやカメラに代表される見るテクノロジーとが車の両輪となって発達してきたことに支えられています。そして今、この著しい発展を遂げてきたバイオイメージングの技術は、医療の分野に利用されつつあります。

  光を細胞/組織に入射すると、その表面や内部で反射、吸収、屈折、散乱といった現象が起きます。これらの現象をうまく計測してやれば、細胞/組織内で機能する物質の濃度や動きを知ることができますが、一部の現象のシグナルは極めて弱いのでこれまで充分に利用できたわけではありません。ところが、昨今著しい進歩を遂げたレーザなどの光学技術は、これまで容易に捉えることのできなかった微弱な現象を捉える可能性を我々に与えてくれました。つまり、多光子吸収、第二高調波発生などの非線形現象やラマン散乱などです。これらの技術を用いたイメージング技術は、より生体に近い組織でのイメージングや無染色によるイメージング、さらには観察だけでなく細胞機能の制御も可能にしてくれます。このセミナーでは、これまであまり利用されてこなかったこれらの光の特性を捉えるバイオイメージング技術を用いた新しい光診断システムについて以下の試みを中心に紹介します。

1.蛍光内視鏡:蛍光の特徴には、1)コントラストがよい、2)分解能以下のものでも見える、3)多重染色が容易である、4)時間分解能がよいなどがあり、診断に適した性質を持っています。しかし、医療に用いることのできるプローブの開発や減衰の問題などがあり、これまで使われる機会は多くありませんでした。最近では、プローブが必要ない自家蛍光を対象としたものやがん細胞に特異性を持ち、生体で用いることの可能なプローブも開発されつつあります。

2.ラマン散乱顕微鏡:ラマン散乱分光は分子固有の振動を捕える技術であり、機能に応じた生体分子のコンフォメーション変化をプローブ無しに解析することができます。これを光学顕微鏡に応用すると、無染色で、生きたままの細胞/組織の構造や機能を計測できるイメージングシステムとなります。しかし、ラマン散乱の量子効率は低く、これまでイメージングは困難とされてきました。最近我々は、ライン照明とパラレル検出技術を取り入れた高速ラマン散乱顕微鏡システムを用いて、無染色のままで細胞/組織のイメージを取得し解析できるようになりました。例えば、532nm励起によるヘム蛋白の共鳴ラマン散乱を利用し、主成分分析によるイメージ再構築を行うことによって、ラットに作成した心筋梗塞巣の生体組織診断が可能となりました。我々はこれまで不可能であった分子レベルでの非浸襲生体組織診断への応用を目指しています。

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