Japan Prize

財団概要

JAPAN PRIZE:人類の平和と繁栄のために

小宮山 宏
小宮山 宏

地球は宇宙に浮かぶ無数の星のひとつである。その小さな星が生まれてから45億年の時が経過し、直近の一瞬ともいうべき数百万年前に私たちの祖先が誕生した。以来人類は種としての繁栄を続け、文明を発展させてきた。人のくらしも豊かになっていったが、その歩みは極めて緩慢であった。ところが今から二百年ほど前に産業革命が起こり、状況が一変した。特に20世紀に入って以降、発展の歩みは著しく加速し、人々のくらしは豊かさを増した。その発展をけん引したのは科学技術である。

例えば、人は長生きになった。実はその歴史の中で、ほぼすべての人々は短命であったのだ。20世紀初頭に入っても人の平均寿命は31歳、それが現在すでに72歳に達している。積年の夢であった長寿を実現したのだから、文明は成功しているといってよいだろう。

Japan Prize(日本国際賞)は、人類の平和と繁栄に貢献する科学技術の成果を表彰するために創設された。これまでの授賞の歴史をたどるとき、私たちが現在享受するくらしの豊かさと、その実現に果たした科学技術の役割を実感することができる。今後ともその意義を確信し、事業の継続を図る所存である。

一方で、地球とそこに生きる人の未来に不安が生じていることを否定しえない。私たちは、美しい地球を維持することができるだろうか。人類は、一人も取り残すことなしに、繁栄を続けることができるだろうか。それこそが今、私たちに課せられた基本的な問いなのである。これからのJapan Prizeが、こうした問いに答えるものになるであろうことを確信している。

科学の発展は膨大な知の蓄積をもたらした。知が人類のかけがえのない財産であることは言を俟たないが、あまりの膨大さゆえに、知の全体像を把握することが困難になっている。このことが、豊かさを増した社会の複雑化、豊かさの代償としての地球の変化とあいまって、私たちの行く末に不安をもたらしている。つまり、科学の発展そのものが未来への不安の源泉なのだから、科学者はこの問題に正面から対峙すべきである。様々な課題の解決に向けて、細分化した知の分野を超えて取り組まなければならないだろう。科学技術が悪しく用いられる可能性を否定しえないとしても、それを解決する知はありうると私たちは確信する。

文明と科学技術の行く末に思いを馳せつつ、1985年の第1回授賞式以来、本賞に対し格別のご厚情を賜った上皇上皇后両陛下に心からの謝意を表するために、2019年、「平成記念研究助成制度」を創設した。意欲ある研究者にチャレンジを促す一助となれば幸いである。

今後とも当財団は、顕彰や助成、啓発を通じて、人類の平和と繁栄に貢献していきたい。

会長 小宮山 宏

JAPAN PRIZE:知慮としての科学技術を

永井 良三
永井 良三

人は生まれながらに知ることを欲する。人間の好奇心から科学が誕生し、人類の知的基盤となった。科学は技術に応用されることにより社会を変革し、技術の発展は科学を深化させてきた。科学と技術は相まって人類の知を拡大し、近代的自我と近代社会を形成した。しかし科学技術は戦争の手段ともなり、さらに地球環境を悪化させるなど、生命の存続と人間の営みを危うくしつつある。最近はAIの発展もめざましい。AIはさまざまな領域の科学研究や技術開発に活用されているが、誤った情報も容易に生みだす。これが拡散すると真実の判断は困難となる。

この状況において、我々は科学技術の成果を謳歌するだけではなく、その二面性にも眼を向ける必要がある。科学技術の果実を享受するときに、果実を摘むことに伴う危うさ、すなわち人類と社会のあり方、人々の生き方に及ぼす影響に思いを巡らさなければならない。

しかし科学技術がいかに多くの課題を抱えているとしても、科学技術への期待は大きい。もとより知への欲求はとどまることはなく、為すべき課題に限りはない。科学技術が生み出す課題を解決するのも科学技術であり、わが国は科学技術を通して国際社会への貢献が強く求められている。

Japan Prize(日本国際賞)は、科学技術の進歩のための研究開発活動を奨励し、科学技術に関する知識及び思想の総合的な普及啓発を図ることを目的として、1983年に閣議了解を得て発足した。独創的で飛躍的な成果を挙げ、人類の平和と繁栄に著しく貢献したと認められる世界の研究者に贈られる。毎年4月に開催される授賞式には、天皇皇后両陛下のご臨席を賜り、各界を代表する方々のご出席を仰いできた。現在のJapan Prizeはこうした多くの方々のご理解とご支援の賜物である。本賞はとくに社会への貢献を重視していることが特徴である。ここには賞の創設に関わられた初代松下幸之助会長をはじめとする多くの人々の思いが込められている。

地球規模の変動の時代にあって、人類の道標となるべき知慮としての科学技術がいま求められている。科学技術は正しく育てれば、常にその枝に豊かな実を結ぶ樹に喩えられる。我々は科学の樹のこの精神を次世代に守り伝えなければならない。そのため若手研究者の育成は本財団にとって大きな課題である。そこで2019年に、本賞に対し格別のご厚情を賜った上皇上皇后両陛下に謝意を表し、「平成記念研究助成制度」を創設した。若手の自立と発展を支援する助成となれば幸いである。

国際科学技術財団は、知慮となる科学技術を育てる土壌としての役割を担っている。これにより人類の平和と繁栄に貢献する所存である。

理事長 永井 良三

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