ジョージア工科大学 教授
有機金属気相成長法(MOCVD)は、有機金属化合物ガスを供給原料として用いるエピタキシャル結晶成長技術の一種である。薄膜面内での膜厚の偏差が少なく高速成長が可能であるほか、超高真空を必要としないために装置の大型化が容易であるなどの利点を有するため、現在では青色発光ダイオード(LED)を含む種々のLED・半導体レーザー・太陽電池などの化合物半導体電子・光デバイスの大規模商用生産に必須の手法となっている。ラッセル・ディーン・デュプイ博士はMOCVD技術発展の黎明期において、その手法をデバイス作製に適用し、GaAs/AlGaAsダブルヘテロ半導体レーザーの室温連続発振、量子井戸レーザーや高効率太陽電池の実証を世界に先駆けて報告した。
1970年代はケイ素(シリコン)を用いた大規模集積回路と同時に、ケイ素では実現できない種々の機能を持つ化合物半導体技術の研究も大きく進展した。大量生産のための半導体エピタキシャル成長技術として、MOCVD以外にも分子線エピタキシー法や液相エピタキシー法など様々な技術が盛んに研究されていた。デュプイ博士は1977年、MOCVDによるものとしては世界で初めて実用に耐える半導体ヘテロ構造の作製に成功し、その有用性を実証した。同博士の研究がブレークスルーとなったのは、結晶成長プロセスの詳細な解析と、これに基づいた反応器の設計などで格段の進歩を遂げた点にある。全溶接型の原料ガス供給容器を独自設計して可能な限りクリーンでリークのないシステムを構成するとともに、コンピュータ制御によるバルブスイッチを採用して、急峻なヘテロ接合とドーピングプロファイルを有する不純物の少ない高品質なエピタキシャル成長を初めて実現した。同博士の成果は大規模商用生産技術としてのMOCVDの優位性を決定づけた先駆的なものである。
現在では世界中で多くの自動化されたMOCVD装置が化合物半導体電子・光デバイスの生産に用いられている。世界中の照明器具が急速に高効率LEDに置き換わりつつあることを見ても分かるように、MOCVDの市場規模は既に大きなものであり、今後も大きく発展することは疑う余地がない。
以上より、ラッセル・ディーン・デュプイ博士の功績は「物質・材料、生産」分野における功績を称える2025年日本国際賞にふさわしいと考える。