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2022年4月13日

2020・2021・2022年 日本国際賞(Japan Prize)授賞式
天皇皇后両陛下をお迎えして開催

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公益財団法人国際科学技術財団(理事長:小宮山宏)は、世界の科学技術分野で独創的な成果を挙げ、 人類の平和と繁栄に著しく貢献した科学者に贈るJapan Prize(日本国際賞)の授賞式を、4月13日(水)、 東京都千代田区の帝国ホテル東京で開催しました。

授賞式には、本年2022年(第38回)の受賞者に加えて、授賞式を延期した2021年(第37回)、2020年(第36回)の受賞者を含めて6名が来日し、賞状、賞牌と賞金を贈りました。

賞金額は従来の5,000万円から、2020年受賞者より各分野につき1億円と致しました。

参加した受賞者は、2022年受賞の「物質・材料、生産」分野のカタリン・カリコー博士とドリュー・ワイスマン 博士、「生物生産、生態・環境」分野のクリストファー・フィールド博士、2021年受賞の「資源、エネルギー、 環境、社会基盤」分野のマーティン・グリーン博士、そして2020年受賞の「エレクトロニクス、情報、通信」分野のロバート・ギャラガー博士と「生命科学」分野のスバンテ・ペーボ博士です。

なおコロナ感染症の流行のため来日できなかった2021年受賞の「医学、薬学」分野のバート・フォーゲル シュタイン博士とロバート・ワインバーグ博士には、後日受賞者の居住国において賞をお渡し致します。

Japan Prize受賞者は毎年、国内外の約15,000人の有識者の推薦を受け、約1年間に及ぶ厳正な審査を経て決定されます。本年2022年は「物質・材料、生産」分野で208件、「生物生産、生態・環境」分野で138件の推薦を、2021年は「資源、エネルギー、環境、社会基盤」分野で142件、「医学、薬学」分野で243件の 推薦を、そして2020年は「エレクトロニクス、情報、通信」分野で185件、「生命科学」分野で293件の推薦を受け、その中からそれぞれの分野の受賞者が選ばれました。

式典には、天皇皇后両陛下ご臨席のもと三権の長、関係閣僚の皆様をはじめ、各界の代表の皆様など 約150名が出席。天皇陛下からおことばを賜り、6名の受賞者から挨拶、細田博之衆議院議長から祝辞が 述べられました。

本年の授賞式の様子はこちらのリンクにてご覧いただけます。https://youtu.be/pnzLb-S9ykE

◆2022年受賞者

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カタリン・カリコー博士(写真左)

1955年1月17日生まれ(67歳 ハンガリーと米国)
ビオンテック 上級副社長
ペンシルべニア大学脳神経外科 特任教授
セゲド大学 教授

ドリュー・ワイスマン博士(写真右)

1959年9月7日生まれ(62歳 米国)
ペンシルベニア大学医学大学院 教授
ペンシルべニア RNAイノベーション研究所 所長

<授賞対象分野>
「物質・材料、生産」

<授賞業績>
mRNAワクチン開発への先駆的研究

<研究概要>
2020年12月、世界に先駆けて英米両国で新型コロナウイルスワクチンの接種が始まり、21年2月には日本でも接種が可能になりました。当初、開発には数年を要するとされたワクチンが約1年で量産にこぎ着けたことで、世界中で多くの命が救われ、経済的損失も抑えられました。現在、ワクチンは世界的なパンデミックの終息への大きな力となっています。短期間で開発されたのは、従来のワクチンとは異なる「mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチン」です。
mRNAはDNAと同じ核酸の一種で、生体内でのタンパク質合成の設計図です。1990年代にはDNAとともに医療への応用が研究されましたが、望まない免疫反応を起こすことが障壁となり断念されました。2005年、カタリン・カリコー博士とドリュー・ワイスマン博士は、mRNAを構成するウリジンを修飾核酸のシュードウリジンに置き換えると、望まない免疫反応を抑制できることを発見。2008年には、シュードウリジン化によって目的タンパク質の生産量が上がることも報告しました。この一連の知見は、閉ざされていたmRNAの医療への応用の道を拓き、今回の迅速なワクチン開発につながりました。

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クリストファー・フィールド博士

1953年3月12日生まれ(69歳 米国)
スタンフォード大学ウッズ環境研究所 所長

<授賞対象分野>
「生物生産、生態・環境」

<授賞業績>
観測に基づく先進的な定式化によるグローバルな生物圏の生産力推計と気候変動科学への目覚ましい貢献

<研究概要>
将来の気候変動を高精度に予測するには、地球全体の生物圏の動態を踏まえた推計が不可欠です。特に、二酸化炭素(CO2)の吸収源である植物が気候変動とどう相互作用しているかを明らかにしなければ、人為的なCO2排出量の削減が、地球温暖化の進行をどの程度くい止められるかを知ることはできません。クリストファー・フィールド博士は、野外調査により生きた葉の観測データを積み重ね、それをもとに葉の光合成速度が環境によってどう変化するかを式で表せるようにしました。さらに、植物群落を大きな1枚の仮想的な葉として扱えるように式を発展させ、気候モデルや衛星観測、海洋研究との融合によって、陸海を合わせたグローバルな生物圏のCO2吸収量の分布や、大気中CO2濃度の上昇の原因を明らかにしました。こうしたフィールド博士の研究は、温暖化対策の国際的枠組みである「パリ協定」やIPCC(気候変動に関する政府間パネル)など、今日の気候変動対策における科学的基礎となっています。

◆2021年受賞者

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マーティン・グリーン博士

1948年7月20日生まれ(73歳 オーストラリア)
ニューサウスウェールズ大学 教授

<授賞対象分野>
「資源、エネルギー、環境、社会基盤」

<授賞業績>
高効率シリコン太陽光発電デバイスの開発

<研究概要>
2010年代半ばに太陽光発電が火力発電をコスト面で下回り、太陽光発電の普及による脱炭素社会の実現が現実味を帯びてきました。これは、太陽光発電デバイスのエネルギー変換効率の向上によりコスト低下が進み、大規模太陽光発電が可能になった結果といえます。
マーティン・グリーン博士は、1970年代から結晶シリコン太陽光発電デバイスのエネルギー変換効率を高める研究に取り組み、「電子と正孔*1(せいこう)の再結合を抑制することが重要である」として、さまざまな技術を提案してきました。中でも1999年にエネルギー変換効率24.7%(2008年に基準の変更で25.0%と認定)を達成したPERC構造は、現在、多くの結晶シリコン太陽光発電デバイスに採用されています。
また、博士が育てた多くの人材が、世界各地で大規模太陽光発電デバイスを事業化し、太陽光発電の普及に貢献しています。
*1:半導体において、真性半導体であれば電子で満たされているべき価電子帯の電子が不足した状態を表す。

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バート・フォーゲルシュタイン博士(写真左)(写真下)

1949年6月2日生まれ(72歳 米国)
ジョンズ・ホプキンス大学 教授

ロバート・ワインバーグ博士(写真右)(写真上)

1942年11月11日生まれ(79歳 米国)
ホワイトヘッド研究所 研究員
マサチューセッツ工科大学 教授

<授賞対象分野>
「医学、薬学」

<授賞業績>
多段階発がんモデルの提唱と実証及びそれらがもたらしたがん治療への貢献

<研究概要>
かつてがんは「不治の病」と言われましたが、現代ではその考えは大きく変わり、多くのがん患者が適切な治療を受けることでがんを克服できるまでになりました。また、がんの早期診断法や予防法も大きく進歩しました。こうした進展の背景として、細胞のがん化の仕組みについての理解が著しく進んだことがあげられます。端的にいえば、「がんは1個の細胞内に複数の遺伝子の変異・異常が段階的に蓄積することによって発生する」というモデルが提唱され、それが実証されたことです。このモデルの基盤形成および実証に最も大きく貢献したのが、バート・フォーゲルシュタイン博士とロバート・ワインバーグ博士です。

◆2020年受賞者

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ロバート・ギャラガー 博士

1931年5月29日生まれ(90歳 米国)
マサチューセッツ工科大学名誉教授

<授賞対象分野>
「エレクトロニクス、情報、通信」

<授賞業績>
情報理論・符号理論に対する先駆的貢献

<研究概要>
テレビやパソコン、携帯電話など生活に身近な通信機器から、素粒子物理学や天文学などビッグデータを駆使する最先端の研究にいたるまで、デジタル情報通信は、今日の社会を支える基盤技術の一つです。
しかしながらデータ通信を行う際には、外部から入るノイズ(雑音)などの影響により、誤りが生じます。そこで、この誤りを検出して訂正するための方法が、長年にわたり研究されてきました。
ロバート・ギャラガー博士が提案したLDPC 符号(低密度パリティ検査符号:Low-Density Parity-Check Codes)は、極めて高い信頼性があり、また実用面でも優れています。第5世代移動通信システム(5G)での採用をはじめ、高速大容量通信を支える技術として期待されています。

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スバンテ・ペーボ 博士

1955年4月20日生まれ(66歳 スウェーデン)
マックス・プランク進化人類学研究所 教授

<授賞対象分野>
「生命科学」

<授賞業績>
古代人ゲノム解読による古人類学への先駆的貢献

<研究概要>
私たちはどこから来たのか……。
「現生人類(ヒト)の誕生と進化」の解明は、古人類学の大きな課題の一つです。古人類学では、発掘された骨や歯の化石の形態をもとに、その進化や分類が論じられてきましたが、1980年代の中頃に、スバンテ・ペーボ博士は、DNAを抽出して解析する「遺伝学的手法」を取り入れ、以来この方法で現生人類の進化の核心に迫る成果を次々にあげてきました。
特に、ネアンデルタール人のDNA解析の結果から、現生人類の祖先とネアンデルタール人が交雑していたことを明らかにしました。また、ロシアのデニソワ洞窟から発掘された骨の化石のDNAからは、これまで知られていなかったデニソワ人の存在を明らかにしました。
博士は、古代人DNAの解析を通して、現生人類とはなにものかという根源的な問題に新たな光を当てたのです。

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