Japan Prize Laureates

Laureates of the Japan Prize

1988 Japan Prize受賞者

  • 授賞対象分野
    予防医学
  • 授賞業績
    エイズ原因ウイルスの発見と診断法の開発

【業績解説文】

業績画像
リュック・モンタニエ博士

リュック・モンタニエ博士

パスツール研究所ウイルス腫瘍学部部長

  • 国籍:フランス
  • 生年月日:1932年
ロバート・C・ギャロ博士

ロバート・C・ギャロ博士

アメリカ国立がん研究所腫瘍細胞生物学部部長

  • 国籍:米国
  • 生年月日:1937年

授賞理由

 この度贈賞の対象となった研究テーマは、エイズ原因ウイルス(HIV)の発見と診断法の開発である。

 今日、20世紀のペストとまで言われて恐れられている感染症、エイズ(AIDS、後天性免疫不全症候群)は、1981年から1982年にかけて米国において独立の疾患として確認された病気である。免疫力の極度の低下をきたすことによって、常在菌あるいは病原性の弱い微生物の感染によっても重い症状を呈し、結果として、死亡率が極めて高い病気である。

 モンタニエ、ギャロ両博士は、その病原体であるヒト免疫不全症ウイルス(HIV)を発見するとともに、それぞれにウイルス学的性質や感染経路などを明らかにした。さらに実用的な血清診断手法を開発し、健康感染者や感染血液の認定を容易にして予防対策の基本を確立したのである。

 モンタニエ博士は、この研究以前にも、主として、ウイルスとがんの領域で、いくつかの独創性の高い研究をしている。中でも特筆すべきものは、1964年マックファーソン博士との共同研究によってなされた発見であって、これは、現在も培養細胞のがん化検定のために最も重要な指標として用いられている軟寒天コロニー法の原典である。

 今回授賞の対象とされた研究では、パスツール研究所の共同研究者を率い、1983年、世界に先駆けてHIV-1を分離したことである。すなわち、エイズウイルス、ヒト免疫不全症ウイルスである。このウイルスは当初、いわゆるLymphoadenopathy患者から分離されたために、LAV(Lymphoadenopathy Associated Virus)と名付けられていたが、現在ではHIV-1のプロトタイプとされている。その後、ヘルパーT細胞が標的になっていることを示し、また、アフリカのエイズ研究を進めるとともに、HIVの母児感染あるいは、抗体測定用のELISA法の開発、T4抗原がHIVのレセプターであることの発見、さらには抗原型の異なった関連ウイルスHIV-2の発見や遺伝子クローニングなど、次々と重要な研究を行ない、知見を重ねてきた。

 一方、ギャロ博士は、この研究以前に、すでにこの研究にも関連した2つの大きな研究成果を挙げている。その1つは、TCGF(現在のIL-2)の発見であって、このファクターを加えることにより、Tリンパ球の培養が非常に促進され、その後のヒトT細胞系の研究の発展を促したものである。第2の大きな研究成果は、ご自身で樹立されたTリンパ細胞腫からヒトリンパ腫症ウイルス(HILV-1)を分離したことであって、これはヒトからの初めてのレトロウイルス分離と位置付けられ、その後の、ヒトレトロウイルス研究に大きな影響を及ぼしたものである。

 今回贈賞の対象となった研究結果の第1は、HIVのAIDSとの関係を解析したことであって、その功績は高く評価されている。いたって有用な多くのT細胞株を提供し、また、唾液や精液中のウイルスの検出をはじめ、感染経路の解明、HIVウイルス学的性質の解析、プロウイルスDNAのクローニングや解析を行ったことなど、その貢献度は非常に高いものがある。さらに、HIVに対する単クローン後退の作製と供給、また、現在では最も有効な治療薬と考えられているアジドチミジン(AZT)の開発研究なども、ギャロ博士のグループによってなされている。

 このようにして、モンタニエ博士とギャロ博士は、それぞれの研究グループを率いて、エイズの病原体であるヒト免疫不全症ウイルス(HIV:Human Immunodeficiency Virus)を発見するとともに、その性質や感染経路などを明らかにした。さらに実用的な血清診断手法を開発し、健康感染者や感染血液の同定を容易にして、予防対策の基本を確立したものである。さらに、プロウイルスDNAの遺伝子クローニング等を通じて、ワクチン開発への道も拓かれた。他方では、抗ウイルス剤の開発にも力を入れ、大きな成果を挙げつつある。

 以上述べましたように、これら2人のグループの研究を中心として、エイズの原因ウイルスであるHIVの蔓延予防対策は、現在理論的にはほぼ完全に樹てうるようになった。すなわち、輸血や血液製剤による感染は、供血者あるいは、血液材料を予め検査することによってほぼ完全に防げるようになった。しかし、残る問題は、社会全体における実際の伝播防止対策の確立と、ワクチンの開発であろうと思われる。しかし、この後者については、両博士のグループによる遺伝子クローニングと発現実験の成功、中和反応の証明などにより、基本的にはワクチン開発可能と考えられ、後は開発の努力が必要と思われる状況にまで到達している。

 以上が簡単なご説明であるが、両博士に対する贈賞理由並びに贈賞の対象となった研究テーマについてのご報告である。

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