Japan Prize Laureates

Laureates of the Japan Prize

1989 Japan Prize受賞者

  • 授賞対象分野
    環境科学技術
  • 授賞業績
    クロロフルオロカーボン(フロンガス)による成層圏オゾン層破壊のメカニズムの研究

【業績解説文】

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F・シャーウッド・ローランド博士

F・シャーウッド・ローランド博士

カリフォルニア大学教授

  • 国籍:米国
  • 生年月日:1927年

授賞理由

 今回の贈賞の対象となった研究テーマは、クロロフルオロカーボンによる成層圏オゾン層破壊のメカニズムの解明である。

 最近、クロロフルオロカーボンによる成層圏オゾン層破壊が、地球規模の環境問題の一つとして注目を浴び、国際的に対策が進められている。クロロフルオロカーボンは炭素とフッ素や塩素からなる極めて分解しにくい物質で、わが国では、フロンと呼ばれている。

 フロンによる成層圏オゾン層破壊の可能性を最初に指摘したのは米国カリフォルニア大学ローランド博士である。博士は1974年、スプレーの噴射剤や冷蔵庫・エアコンの冷却材として広く一般に使用されているフロンガスが、大気中に放出されると分解されずに蓄積し、成層圏に運ばれて紫外線で分解され、塩素原子を生成し、これがオゾンを連鎖反応的に分解すること、その結果地上の生物を紫外線から守る成層圏オゾン層が破壊されるおそれがあることを発表した。そして、フロンの放出を減らさなければ、地球の全オゾン量は最終的には7~13%も減少することを理論的に予測し、さらに一旦破壊されたオゾン層が回復するには100年もかかることを明らかにした。

 ローランド博士のこの理論は、その後博士自身や他の多くの研究者の研究結果により確かめられた。そればかりでなく、さらに昨年、世界の専門家たちがまとめた報告書でも、この十数年間に地球の全オゾン量がすでに2~3%も減少していることが明らかにされ、また最近、南極上空で成層圏オゾンの異常減少(オゾン・ホール)が観測されるなど次々と実証されている。

 成層圏オゾン層の破壊が進むと、地上で紫外線が増え、皮ふがんの増加のほか、生物に種々な悪影響を及ぼすおそれがある。また、紫外線を吸収して成層圏を温めるオゾンが失われると、成層圏が冷えて気候変動の原因となる。さらに、フロンガスが大気中にたまると、二酸化炭素と同様に赤外線を吸収して、地球の温暖化をもたらすおそれがある。こうしたことから、成層圏オゾン層を保護するための地球規模の対策が国連環境計画を中心に検討され、ウィーン条約及びモントリオール議定書が定められた。そして今年の7月から、モントリオール議定書に基づきわが国を含む先進国の間でフロンの生産及び消費量の規制が始まることになっている。

 ローランド博士の業績は、最初にクロロフルオロカーボンによる成層圏オゾン破壊を理論的に予測したばかりでなく、その後の世界の研究の先頭に立って理論の実証とメカニズムの解明に尽力し、重要な成果を挙げたことである。博士はさらに、世界各国の科学者や、政府・諸機関、一般の人々がこの地球規模の環境問題を正しく認識するよう終始積極的な努力を続け、成層圏オゾン層保護への対応に国際的、社会的に大きな影響を与えた。人類と地球環境の将来を守るために果した同博士の功績は誠に大きなものである。

 以上簡単にご説明申し上げたが、このような次第が贈賞の理由である。

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