ハドレー気候研究センター名誉科学者及び同センター前理事長
サー・ジョン・ホートン博士は、地球を周回する人工衛星から大気の温度や組成を正確に測定するために、彼自身による大気放射理論を基に、1960年代に新たな遠隔探査センサーの開発に着手し、1970年代には米国航空宇宙局の人工衛星ニンバス4号と5号に選択型チョッパー放射計を、ニンバス6号に気圧変調型放射計を、ニンバス7号に成層圏・中間圏探査器を搭載し、実際に観測を行った。
これらの観測によって、高度10-90kmの気温が世界で初めて地球規模で測定され、また各種大気微量成分の全球分布も明らかにされた。得られた結果は、成層圏および中間圏の大気の力学・熱構造を説明する理論の確立に不可欠な情報を与えるともに、成層圏オゾン層の化学・力学過程を解明する上で重要な役割を果たした。また、ホートン博士が開発したセンサーの性能は極めて高く、その原理は今日でも広く利用されており、衛星による地球観測が開始されて以来、今日までの40年近くにわたり、オゾン層破壊や二酸化炭素などの増加による地球大気環境変動を監視するために役立てられている。
ホートン博士は、このような優れた研究に加え、衛星による地球観測や気候研究計画に係る国際組織の設置・維持・発展において卓抜した指導力を発揮するとともに、ハドレー気候研究センターの設立など、国際的な気候変動研究の推進にも大きな貢献をした。また、人間活動に伴う気候変動に関するアセスメントを国際的に行うために1988年に設立された「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」においても、科学的知見をまとめる上で中心的役割を果たし、この気候問題を国際的に解決すべき最優先課題として広く認知させた。
以上のように、ホートン博士は、革新的アイデアの基に独創性に富んだ人工衛星搭載センサーを開発し、それを用いて地球全体にわたる観測を実施することにより、高層大気についての理解を飛躍的に発展させるとともに、その後の衛星による大気環境の長期監視に大きく寄与した。また、人間活動に伴う気候変動への国際的取り組みの推進にも多大なる貢献を果たした。このような業績は、地球環境の保全にとってきわめて重要であり、2006年日本国際賞を授賞するにふさわしいものである。