Japan Prize Laureates

Laureates of the Japan Prize

2026 Japan Prize受賞者

  • 授賞対象分野
    生命科学
  • 授賞業績
    自然免疫システムによる核酸認識メカニズムの解明

【業績解説文】

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審良静男 博士

審良静男 博士

大阪大学先端モダリティ・ドラッグデリバリーシステム研究センター 特任教授

  • 国籍:日本
  • 生年月日:1953年1月27日
ジージャン・チェン 博士

ジージャン・チェン 博士

テキサス大学サウスウェスタン・メディカルセンター 教授

  • 国籍:米国
  • 生年月日:1966年1月1日

授賞理由

 生命にとって、自己と非自己を識別することは、あらゆるレベルで現れる基本的な原理である。たとえば、微生物界では、外来の遺伝子を切断して防御する制限酵素系や、異物の遺伝情報を記憶して攻撃するCRISPR-Casシステムが働く。植物では、多様性を保つため、花粉の受け入れを制御する自己・非自己認識機構がある。動物では、死細胞の除去や臓器移植時の拒絶反応なども、同様の認識原理に基づいている。社会的な行動や集団のレベルにおいても、自己と他者の識別は重要な要素となる。生体においては、とりわけ個体自身と、感染症を引き起こす細菌やウイルスなどの病原体を正確に区別することが不可欠であり、これは生体防御機構、すなわち免疫系を有効に働かせる根幹である。

 しかし、生命体が病原体をどのように識別し、即座に防御反応を開始するのか、その分子機構は長らく不明であった。ここで重要な役割を果たすのが「自然免疫系」である。自然免疫系とは、病原体が体内に侵入した際、抗体が無い状態でも即座に反応して感染の拡大を防ぐ生体の第一防衛線として働く免疫システムである。特に、病原体由来のDNAやRNAといった「核酸」(遺伝情報を担う分子)を、この自然免疫系がどのように異物として見分けるのかは、免疫学における根本的かつ未解明の課題であった。審良静男博士とジージャン・チェン博士は、この難問に対して決定的な解答を与えた。両博士は、自然免疫における核酸認識の要となる分子センサー(異物を感知する受容体タンパク質)と、その下流に続くシグナル伝達経路を次々に明らかにした。その成果は、自然免疫の全体像の理解を一変させるとともに、自己免疫疾患の病態解明や新規ワクチン・免疫療法の開発に直結するものである。

 審良博士は、哺乳類の自然免疫を担う受容体群であるToll様受容体(Toll-like receptor, TLR)の研究を通じて、細菌DNAに特有の非メチル化CpG配列を認識するTLR9(2000年)や、ウイルスRNAを認識するTLR7(2002年)を発見した。これにより、自然免疫が核酸を直接識別し、感染初期に防御応答を誘導する仕組みを初めて示した。さらに、ウイルスRNAを感知する細胞質内受容体であるRIG-I様受容体(RIG-IおよびMDA5)の機能を明らかにし、これらがⅠ型インターフェロン産生(抗ウイルス応答の主要経路)に必須であることを示した。また、細胞内DNAがTLRとは独立して免疫応答を誘導することを発見し、後に「cGAS経路」として確立されたDNA応答システムの研究基盤を築いた。これらの発見は自己免疫疾患研究やワクチン用アジュバント(免疫反応を高める補助成分)の開発に広く応用され、mRNAワクチンの実現にも大きく貢献した。

 一方、チェン博士は、ウイルス感染時に抗ウイルス信号を伝達するミトコンドリア抗ウイルスシグナル分子MAVS(Mitochondrial Antiviral Signaling Protein)を2005年に同定し、細胞内RNA検出からⅠ型インターフェロン産生へ至る経路を体系的に明らかにした。さらに2013年には、細胞質DNAを直接感知するセンサー分子cGAS(cyclic GMP-AMP synthase)を発見し、その反応産物である新規セカンドメッセンジャーcGAMP(cyclic GMP-AMP)と、下流で応答を制御するSTING経路(Stimulator of Interferon Genes pathway)を同定した。これにより、DNAウイルス感染に対する防御機構の基本原理が明らかになり、現在ではがん免疫療法への展開も検討されている。さらにその後、細菌にもcGAS様のDNA認識システムが存在すること(CBASS: Cyclic-oligonucleotide-Based Anti-phage Signaling System)が発見され、核酸認識機構が進化的に保存された普遍的な自然免疫戦略であることが示された。

 両博士の研究は、相補的な形で自然免疫における「核酸認識」という未踏の領域を切り拓き、感染症学、免疫学、ワクチン科学に新たな地平をもたらした。その成果は、人類の健康と福祉に直接寄与するものであり、今後も自己免疫疾患やがん治療の革新につながることが期待される。以上より、審良静男博士およびジージャン・チェン博士の卓越した功績は、「生命科学」分野における顕著な貢献として、2026年日本国際賞にふさわしいものである。

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