Japan Prize Laureates

Laureates of the Japan Prize

2007 Japan Prize受賞者

  • 授賞対象分野
    基礎研究が発信する革新的デバイス
  • 授賞業績
    巨大磁気抵抗効果(GMR)の発見と革新的スピンエレクトロニクス・デバイスの創生

【業績解説文】

業績画像
アルベール・フェール博士

アルベール・フェール博士

パリ南大学(パリ第11)教授

  • 国籍:フランス
  • 生年月日:1938年3月7日
ペーター・グリュンベルク博士

ペーター・グリュンベルク博士

ユーリヒ固体物理研究所

  • 国籍:ドイツ
  • 生年月日:1939年3月18日

授賞理由

 1988年、アルベール・フェール博士とペーター・グリュンベルク博士は、時を同じくして独立に「巨大磁気抵抗効果(GMR)」(わずかな磁界を加えるだけで電気抵抗が大きく変化する現象)を発見した。この発見は、両博士がそれぞれ長期にわたって取り組んできた基礎研究の成果であり、その後のスピンエレクトロニクス分野の発展の礎になったものである。 

 強磁性体における磁化の状態が電気抵抗に与える影響については古くから関心がもたれてきたが、フェール博士は、1970年代以来、強磁性合金における電気伝導現象の量子力学に基づくミクロな理解に向けて広汎かつ先駆的な研究に取り組んできた。このような研究を通して1980年代半ばには、人工磁性格子において磁性層の磁化を外部磁界によって反平行から平行にスイッチすることが出来ればGMRが可能であろうとの先見ができるようになった。

 このような状況下、長年磁性膜の成長方法の改善と評価法の確立に取り組んできたグリュンベルク博士は、1986年には鉄・クロム・鉄の薄い膜を三層積んだ構造において、クロム層の厚みがある特定の値を取るときに鉄の層の磁化が反平行に結合することを見出した。そして1988年には、このような三層の系が室温で1%程度のGMRを示すことを発見した。これとは独立にフェール博士らは、全く同時期に、鉄とクロムを数十層重ねた多層膜において低温(4.2K)かつ1T程度の磁場により電気抵抗が50%程度も変化するというきわめて大きなGMRを発見した。これら両博士の発見により室温でのGMRの応用の可能性について広く社会的に認識されるようになった。

 GMRの発見から10年ほどの短期間のうちに、この効果を用いた小型大容量ハードディスクがパソコン、ビデオレコーダ、携帯音楽プレーヤー等のIT機器に組み込まれ普及したことは注目に値する。両博士が拓いたスピンエレクトロニクスのパラダイムは、電気伝導現象と磁気現象を結びつける多くの基礎研究とこの効果を用いた不揮発性メモリ(MRAM)などの革新的な応用分野の発展を促した。以上のように、アルベール・フェール博士およびペーター・グリュンベルク博士の業績は、革新的デバイスに結びつく基礎研究として、2007年日本国際賞を授賞するにふさわしいものである。

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