歴代受賞者

2019年(第35回)Japan Prize受賞者

「物質・材料、生産」分野
らせん高分子の精密合成と医薬品等の実用的光学分割材料の開発への先駆的貢献

名古屋大学 特別教授
中国ハルビン工程大学 特聘教授
1941年生まれ
授賞理由

 岡本佳男博士は、従来の常識を覆すらせん高分子を創製する不斉重合の概念を確立し、その成果を光学活性な医薬品等の実用的分離法へと発展させ、基礎科学と産業の発展に大きく貢献した。

 博士は、光学不活性なモノマーから光学活性な高分子を合成する、不斉重合の概念を確立した。1977年には、ラセミ体(鏡像異性体の等量混合物)のビニルモノマーの一方の鏡像異性体のみを、高い選択率(90%以上)で重合させた。次いで、光学不活性なビニルモノマーから、溶液中でも安定な完全に一方向巻きのらせん高分子(光学活性高分子)の選択的合成に成功した。らせん構造はDNAや蛋白質のような生体高分子によく見られるが、光学活性基をもたない高分子が、溶液中でも安定ならせん構造を保持することは、それまで理論的な予測すら存在せず、この発見は化学のみならず周辺領域にも大きなインパクトを与えた。

 従来、鏡像異性体は、既存の光学活性体との塩として再結晶で分割するのが一般的だった。必要な鏡像異性体のみを作り分ける不斉合成法も開発されているが、いずれの手法もターゲット分子ごとにチューニングが必要である。これに対し岡本博士は1981年、自身が開発した光学活性らせん高分子をカラムに充填して鏡像異性体の混合物を流通させ、それまで困難だった数々の鏡像異性体の効率的な分離に成功した。一つのカラムを多様なターゲット分子に適用でき、極めて汎用性が高い。博士はこの学術的成果に基づいて企業との共同研究を行い、世界初の高分子系キラルカラムとして、1982年これを実用化した。さらに、より優れた充填剤を探索し、1984年天然の光学活性高分子であるセルロースやアミロースなどの多糖を化学修飾し、現在、世界中の企業、大学で最も使用されているキラル充填剤を開発した。

 生体は鏡像異性体に対して高い識別能を示すため、副作用がなく薬効の高い医薬品を得るためには、単一の鏡像異性体(キラル医薬品)を得ることが必須である。岡本博士が開発したキラル充填剤を用いれば、キラル医薬品をトン規模で分離することも可能である。この技術を基盤としたキラル分離事業は、欧米アジアの世界5か国に拠点が設けられ、今や世界中の研究者誰もが当たり前のようにその恩恵を享受するに至った。

 このように、基礎研究から端を発して開発された岡本佳男博士の技術は、応用研究を経て実用化され、医薬品を始めとするキラル物質創製に多大な貢献を果たし、その功績は「物質・材料、生産」分野における貢献を称える2019年日本国際賞にふさわしいと考える。

Japan Prize歴代受賞者による社会貢献

受賞者

Japan Prize 30年の歩み

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