Japan Prize Laureates

Laureates of the Japan Prize

2021 Japan Prize受賞者

  • 授賞対象分野
    資源、エネルギー、環境、社会基盤
  • 授賞業績
    高効率シリコン太陽光発電デバイスの開発

【業績解説文】

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マーティン・グリーン博士

マーティン・グリーン博士

ニューサウスウェールズ大学 教授

  • 国籍:オーストラリア
  • 生年月日:1948年7月20日

授賞理由

 マーティン・グリーン博士は、結晶シリコンを用いた高効率太陽光発電(Si-PV)デバイスの開発を先導し、火力発電より安価な太陽光発電の実現および産業化に多大な貢献を果たした。特に17%程度で頭打ちであった変換効率を、先駆的な技術の開発と高度なインテグレーションにより25%に飛躍的に高め、再生可能エネルギーによる低炭素・脱炭素社会実現への見通しを現実的なものとしたことは大きな達成である。またSi-PVデバイスの産業化を担ってきた研究者・経営者を数多く輩出するなど主導的な役割を果たしてきた。

 Si-PVデバイスは、1954年にベル研究所のダリル・チャピン、カルバン・フラー、ジェラルド・ピアソンによって発明された。1972~74年にCOMSAT研究所のジョゼフ・リンドメイヤー、ジェームズ・アリソン、ジョゼフ・ヘイノスらにより量産型デバイスが開発され17%近い変換効率が達成されたが、以来、頭打ちの状況にあった。それに対し、グリーン博士は変換効率向上には、太陽光により励起された電子と正孔の再結合の高度な抑制が重要であることを一早く指摘、変換効率25%を現実的な目標と提示するとともに、研究開発を通じた大幅な変換効率向上を達成した。シリコンが太陽光を吸収すると電子と正孔が生成し、それら電荷を外部に取り出すことで電力が得られる。電荷の取り出しには電極が必要だが、シリコンと電極の界面で電荷が再結合して消滅する問題がある。1983年には、シリコン表面に薄い酸化層を形成して再結合を防ぎつつ、トンネル電流を取り出すことに成功し、変換効率18%を達成した。以来、次々と新構造を発明し変換効率の記録を更新する中、シリコンの表面に加えて裏面にも再結合抑制の対策を施したPERC構造を発明、1999年には24.7%(2008年の再校正で25.0%)を達成した。このPERC構造は、現在のSi-PVの主流となっている。Si-PVの大規模な社会実装には、効率向上とともに量産化と低コスト化が不可欠であったが、グリーン博士は多くのSi-PVメーカーの創業者を育成しており、産業化にも大きく貢献している。

 十数年前までの再エネは地球環境保全の上で重要だが高価という考え方は、当該技術の社会実装により、太陽光発電が火力発電よりも安価となったことで根底から変わった。これは、企業の参入や政策による後押しを促す一因ともなり、低炭素・脱炭素社会の構築に向けた動きが世界的に急速に加速することにつながっている。今や、太陽光発電はエネルギー問題、地球温暖化問題に対する主要な解決手段と認識され、各種の新型PVデバイスが精力的に研究開発されている。その中で、実際の解決方法となった高効率Si-PVデバイスを開発し多くの技術者・起業家を育てたグリーン博士の功績を再評価する時期にきたと考える。

 以上、高効率太陽光発電デバイスの開発において、独創的で圧倒的な成果を挙げ科学技術の進歩に大きく寄与し社会実装に繋げたマーティン・グリーン博士の功績は極めて大きく、「資源、エネルギー、環境、社会基盤」分野における貢献を称える2021年日本国際賞にふさわしいと考える。

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