Japan Prize Laureates

Laureates of the Japan Prize

2021 Japan Prize受賞者

  • 授賞対象分野
    医学、薬学
  • 授賞業績
    多段階発がんモデルの提唱と実証及びそれらがもたらしたがん治療への貢献

【業績解説文】

業績画像
バート・フォーゲルシュタイン博士

バート・フォーゲルシュタイン博士

ジョンズ・ホプキンス大学 教授

  • 国籍:米国
  • 生年月日:1949年6月2日
ロバート・ワインバーグ博士

ロバート・ワインバーグ博士

ホワイトヘッド研究所 研究員
マサチューセッツ工科大学 教授

  • 国籍:米国
  • 生年月日:1942年11月11日

授賞理由

 がんは長年に亘り不治の病と捉えられてきたが、近年のがん研究の進展により、その本態の解明が進むにつれて数々の新たな診断・治療法が開発されている。ロバート・ワインバーグ博士とバート・フォーゲルシュタイン博士は、それぞれ独自の研究手法を用いることによって、がんが多段階の遺伝子変異を経て起こるという「多段階発がんモデル」を提唱、これを実証することにより、発がん機構の本質を明らかにし、がんの早期発見・予防・治療への新たな道を切り開いた。

 ロバート・ワインバーグ博士は、発がん関連遺伝子を単離する画期的な手法を開発し、ヒトゲノム内にがん化の原因となる遺伝子が存在し、その遺伝子が変異することにより、がん遺伝子へと変換することを発見した。さらに、機能消失ががんの原因となると提唱されていたがん抑制遺伝子の実体解明に挑み、初のヒトがん抑制遺伝子 RBの単離にも貢献するとともに、その後も多くの主要がん関連遺伝子の発見に貢献した。一方、バート・フォーゲルシュタイン博士は、種々のヒトがん細胞で変異している遺伝子を探索し、がんの原因となる多くの新規遺伝子を単離した。その過程で、当時がん遺伝子と考えられていたp53が実際にはがん抑制遺伝子として機能していることを明らかにし、続いてがん抑制遺伝子APCの単離を契機に、大腸がんの発症・進展における病理学的変化が特定のがん遺伝子・がん抑制遺伝子変異の順序だった蓄積と深く関連することを見出した。

 これらの知見に基づき両博士らは、一個の正常細胞に複数のがん遺伝子とがん抑制遺伝子の変異が複数回起こることでがん細胞へと変化していくという概念、すなわち「多段階発がんモデル」に至り、ワインバーグ博士は正常初代培養細胞への各種がん関連遺伝子の導入実験等によって、また、フォーゲルシュタイン博士は実際の患者における大腸がんの発症過程の解析を通して、この概念の正当性を実証した。そして、ワインバーグ博士はダグラス・ハナハン博士と共に、細胞のがん化とその維持に重要となる10項目の細胞自律的・非自律的条件(Hallmarks of Cancer)を、そしてフォーゲルシュタイン博士は大腸がん発症における多段階発がん説(Vogelgram)を提示した。このような両博士の一連の成果は、がんの分子標的を明らかにすることに繋がり、論理に裏打ちされたがん治療法の開発にも大きく貢献した。

 このような両博士のがん研究におけるマイルストーンとなる研究により、がんという複雑かつ無秩序とも思える疾患の本質が整然と明確化され、がんの早期発見や個別化治療の道が切り拓かれた。以上より、バート・フォーゲルシュタイン博士とロバート・ワインバーグ博士の功績は、「医学、薬学」分野における貢献を称える2021年日本国際賞にふさわしいと考える。

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