Japan Prize Laureates

Laureates of the Japan Prize

2022 Japan Prize受賞者

  • 授賞対象分野
    物質・材料、生産
  • 授賞業績
    mRNAワクチン開発への先駆的研究

【業績解説文】

業績画像
カタリン・カリコー博士

カタリン・カリコー博士

ビオンテック 上級副社長
ペンシルべニア大学脳神経外科 特任教授
セゲド大学 教授

  • 国籍:ハンガリー・米国
  • 生年月日:1955年1月17日
ドリュー・ワイスマン博士

ドリュー・ワイスマン博士

ペンシルベニア大学医学大学院 教授
ペンシルべニア RNAイノベーション研究所 所長

  • 国籍:米国
  • 生年月日:1959年9月7日

授賞理由

 カタリン・カリコー博士とドリュー・ワイスマン博士はmRNAのウリジンを修飾ウリジンに置き換えると、望ましくない生体の自然免疫反応を抑制できることを発見し、置換したmRNAのタンパク質生産に関する研究を続け、mRNAワクチンの開発基盤を作った。

 タンパク質を合成する遺伝情報をDNAから写し取り伝達するリボ核酸(mRNA、メッセンジャーRNA)を生体に投与し、治療効果のあるタンパク質(ワクチンの場合は抗原)を体内で生成させ医薬品とする考えは早くからあった。しかし、mRNAを体内に投与すると分解されやすく、また外部から取り込まれたmRNAは生体に異常なRNAとして認識され、Toll様受容体(TLR)の活性化による炎症反応を引き起こす(注:TLRは細胞膜に存在する受容体タンパク質で、種々の病原体を感知して自然免疫(一般的な病原体を非特異的に排除する仕組み)を作動させる)。その結果、免疫に必要な量のタンパク質が作られる前に細胞が死滅、あるいは体内で高熱がでるなどの課題があり、長年、薬として用いるのは難しいと考えられ、実用化されてこなかった。

 カリコー博士とワイスマン博士は、ペンシルベニア大学の医学部において同僚であったときに、mRNAの医薬品利用の可能性を拓きたいと考え、共同研究の結果、2005年に修飾ウリジンに置換したRNAを用いると、TLRによる免疫反応を抑えられることを発見した。2008年には修飾したウリジンに置き換えた mRNAを用いることによって、生体内で効率よくタンパク質を作り出すことを発見し、これらの研究は、治療薬としてのRNA(mRNA)の開発に道を拓いた。さらに、2012年にはマウスを用い、特定のタンパク質をコードした修飾ウリジンmRNAを用いて、未修飾mRNAに比べ10-100倍の高効率にタンパク質を体内で生成できることを実証した。

 これは、現在用いられている、ファイザー社ならびにモデルナ社製のCOVID-19ワクチンの基礎技術であり、mRNAを用いるCOVID-19ワクチンの約一年という短期間での開発・生産を可能にした。開発されたワクチンは世界中で使用され(ファイザー社の2021年のワクチン生産量は30億回分、モデルナ社は8~10億回分)、COVID-19パンデミックのもとで、多くの人命を救うとともに社会にパンデミック終息の希望を与え、またCOVID-19による世界的な経済損失の減少にも貢献している。また、これらの成果により、新たなワクチン用途をはじめ、日本を含め世界各地で様々なmRNA医薬品への期待が高まり、開発研究が加速している。

 このように、カタリン・カリコー博士、ドリュー・ワイスマン博士の功績は、「物質・材料、生産」分野における人類社会の持続的発展への貢献を称える2022年日本国際賞にまことにふさわしいと考える。

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