Japan Prize Laureates

Laureates of the Japan Prize

2023 Japan Prize受賞者

  • 授賞対象分野
    エレクトロニクス、情報、通信
  • 授賞業績
    半導体レーザー励起光増幅器の開発を中心とする光ファイバ網の長距離大容量化への顕著な貢献

【業績解説文】

業績画像
中沢正隆 博士

中沢正隆 博士

東北大学 卓越教授(DP)/特任教授

  • 国籍:日本
  • 生年月日:1952年9月17日
萩本和男 氏

萩本和男 氏

国立研究開発法人情報通信研究機構 主席研究員

  • 国籍:日本
  • 生年月日:1955年1月8日

授賞理由

 中沢正隆博士ならびに萩本和男氏は、半導体レーザー励起光増幅器の開発と実用化を中心として、波長分割多重伝送技術WDM (Wavelength Division Multiplexing)や多値伝送技術QAM (Quadrature Amplitude Modulation)、デジタルコヒーレント伝送技術など、一貫して光ファイバ通信網の長距離化および大容量化に対する多大な貢献を行い、海底光ファイバ通信による大陸間通信や年々爆発的に増加するデータ量への対応など、グローバルなインターネット社会を支える基幹技術である長距離大容量光データ通信の道を拓いた。

 1980年代単一モードファイバによる光通信が実用化されたが、長距離通信においては数十km毎に電気増幅器ならびに発光・受光素子を中継器に入れて光信号を再生中継する必要があった。しかし、電気増幅器は帯域が狭く、光素子も含めた装置は大型であり消費電力も大きいなど、光信号をそのまま増幅する小型で広帯域な光増幅器の出現が期待されていた。中沢博士と萩本氏は、それまで実用化が難しかった小型高効率広帯域の光増幅器EDFA (Erbium-Doped Optical Fiber Amplifier)を実現した。具体的には、中沢博士が、エルビウム添加ファイバを励起するための光源として、波長1.48μmのInGaAsP半導体レーザーを用いる方法を世界で初めて提案し、散乱・吸収等による光減衰が0.2 dB/kmと光ファイバ通信での最低損失波長域である1.5μm帯において、波長幅40 nmの広範囲にわたり12.5 dBの利得を得ることに成功した。これにより、1.5 m四方程度の大きさとなる極めて大掛かりな励起光源を必要とする従来の光増幅器とは異なり、電池でも駆動できる僅か約10 cm四方の小型広帯域光増幅器による、実用的な光通信システム構築への展望が開けた。また、萩本氏は中沢博士の提案をもとにして、間を置かず当該光増幅器を高出力化して1.8 Gbit/sの強度変調直接検波方式により212 kmの長距離伝送を成功させ、その実用性を世界で初めて実証した。

 これらの成果は、代表的な光中継器として、開発からわずか5年ほどで、太平洋・大西洋横断光海底ケーブルなど世界を結ぶ幹線系長距離伝送網で採用されるなど、光通信システムの実用化を飛躍的に進展させた。また、EDFAは多波長光信号も一括増幅できるため、WDMによる大容量化技術の開発も相まって、1990年代半ば以降光通信の利用が一気に進み、萩本氏らが主導した国際標準化などを経て、テラビット光伝送に向けた扉が開かれるに至っている。

 本業績により、世界中のインターネット上で利用する情報リソースの多様化・大容量化が可能となり、その爆発的な普及を後押ししてきた。高速大容量な光通信システムが低価格で提供されるようになったことが、現在我々の日常生活で広く利用されているSNSやクラウドサービスなどのデータ情報基盤の飛躍的拡大を可能としたとも言える。

 このように、中沢正隆博士、萩本和男氏の功績は、「エレクトロニクス、情報、通信」分野における貢献を称える2023年日本国際賞にふさわしいと考える。

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