Japan Prize Laureates

Laureates of the Japan Prize

2023 Japan Prize受賞者

  • 授賞対象分野
    生命科学
  • 授賞業績
    遺伝子操作可能な光感受性膜タンパク質を用いた神経回路の機能を解明する技術の開発

【業績解説文】

業績画像
ゲロ・ミーゼンベック 博士

ゲロ・ミーゼンベック 博士

オックスフォード大学 神経回路・行動学研究所 ウェインフリート生理学教授

  • 国籍:オーストリア
  • 生年月日:1965年7月15日
カール・ダイセロス 博士

カール・ダイセロス 博士

スタンフォード大学医学部 バイオエンジニアリング学科・精神医学学科、ハワード・ヒューズ医学研究所 教授

  • 国籍:米国
  • 生年月日:1971年11月18日

授賞理由

 神経科学の重要な課題の一つは、神経回路を構成する個々の神経細胞の活動と、それぞれの回路が担う生物個体レベルでのふるまいとの間の因果関係を解明することである。従来は、神経細胞を傷害したり、あるいは薬剤や電気刺激によって電気活動を修飾したりすることによって神経回路の機能が検討されてきた。しかし、これらの方法では、神経回路を構成する細胞ごとの特異性や、刻々と変化する神経活動の役割については十分に解明できない。Miesenböck博士は、遺伝子操作によって特定の神経細胞に発現させた膜タンパク質の活性を光照射で制御することによって、神経細胞の活動が生物個体レベルで果たす機能を解明できるという概念と技術を開発した。Deisseroth博士はさらに微生物由来の光活性化タンパク質を用いた手法を開発し、高い時間分解能を実現することで、特定の神経細胞の活動と生物個体レベルの機能との間の因果関係を解明する技術を確立した。

 Miesenböck博士は2002年にChARGe (ハエのロドプシン、アレスチン、Gqαの3つの遺伝子)を発現させたラット培養海馬神経細胞の電気活動を光照射によって自在に制御できることを初めて実証した。さらに、ATP受容体チャネルP2X2がハエ神経細胞において、ATP投与によって神経活動を亢進させることを活用し、光刺激によってATPを解離するcaged ATP投与と組み合わせることによって、ハエの雄の求愛行動を制御する神経回路網の解明に成功した。

 Deisseroth博士は、緑藻類の光依存的イオンチャネルであるチャネルロドプシンChR2に着目し、これを発現させたラット培養海馬神経細胞の神経活動を、光照射によってミリ秒単位で制御できることを2005年に初めて示した。さらにChR2やその関連タンパク質をマウスのさまざまな神経細胞集団に発現させることによって、高次精神活動に関与するガンマ波脳波が、特定の抑制神経細胞集団の神経活動によって形成されることや、前頭前野における興奮性/抑制性神経細胞活動のバランスが、社会性行動や学習を制御することを示した。

 光刺激を用いた神経活動の制御技術は、生物の個体レベルでの神経回路の機能と役割を解明するために欠かせない革新的な技術として現在も発展を続けている。基礎生物学的な観点のみでなく、例えば網膜回路が残っている盲目の患者さんに対する治療や、パーキンソン病患者の治療法として、電気刺激に代わって光刺激が用いられるようになる可能性がある。

 遺伝子操作可能な光感受性膜タンパク質を用いて、生物個体レベルでの神経回路の機能を解明するという概念と技術の開発を行ったという点から、Miesenböck博士とDeisseroth博士の功績は、「生命科学」分野における貢献を称える2023年日本国際賞にふさわしいと考える。

ページトップへ