Japan Prize Laureates

Laureates of the Japan Prize

2024 Japan Prize受賞者

  • 授賞対象分野
    資源、エネルギー、環境、社会基盤
  • 授賞業績
    異常気象の理解と予測に資する科学的基盤の構築

【業績解説文】

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ブライアン・ホスキンス 博士

ブライアン・ホスキンス 博士

レディング大学気象学科 教授

  • 国籍:イギリス
  • 生年月日:1945年5月17日
ジョン・ウォーレス 博士

ジョン・ウォーレス 博士

ワシントン大学大気科学科 名誉教授

  • 国籍:米国
  • 生年月日:1940年10月28日

授賞理由

 ブライアン・ホスキンス博士とジョン・ウォーレス博士は、それぞれ理論・数値モデル研究とデータ解析研究から、コンピュータを用いた今日の数値天気・天候予報の基盤となる気象・気候力学の発展に大きな足跡を残してきた。両博士の一連の研究成果は、今日ますます激甚化する異常気象の理解と予測に資する科学的な礎を築くもので、その貢献は特筆に値する。

 顕在化する地球温暖化に大気海洋系の顕著な自然変動が重畳することで、近年世界各地で異常気象に伴う甚大な災害が頻発している。昨夏も我が国を含め世界各地で起きた熱波や大雨などは、その社会的影響の甚大さをまざまざと見せつけた。今後、各地で起こる異常気象が一層極端になれば、それらの発生を事前予測し得る数値天気・天候予報の防災・減災上の社会的重要性は今以上に高まるであろう。今や社会に不可欠なソフトインフラとなった数値天気・天候予報の発展は、計算機資源や観測・予報技術の飛躍的向上のみに支えられたものではなく、多様な時空間規模における大気循環の振舞の実態解明、そのメカニズムと予測可能性の理解の革新的な深化に裏打ちされてきた。その科学的進歩に、両博士は盟友として過去半世紀ほどにわたり本質的な貢献を為してきた。

 天気予報がまだ主に予報官の経験に頼っていた1970年代後半、ホスキンス博士は、中緯度偏西風帯における温帯低気圧と前線の発達・成熟過程を数値大気モデルで初めて現実的に再現し、数値天気予報の飛躍的発展を予見させた。同時期、ウォーレス博士は、数値天気予報用の初期値格子点データにおいて高・低気圧や偏西風などが力学原理に従って再現されていることを世界に先駆けて明示し、大気循環の観測・解析研究の急速な定量化を促した。1980年代初めには、ある地域の大気循環異常が離れた地域に循環異常を引き起こす「遠隔影響」に関して、ホスキンス博士がロスビー波伝播理論に基づく力学的根拠を与え、ウォーレス博士が観測データから北半球冬季に起こりやすい「遠隔影響」に伴う循環異常を特定した。同博士は、熱帯太平洋大気海洋系の経年変動「エルニーニョ・ラニーニャ」が冬季北半球に及ぼす持続的循環異常を初めて統計的にデータから同定、より持続的な10年規模変動からの遠隔影響も含め、1ヶ月以上先の天候予報に熱帯域の大気海洋変動がその根拠となる予測可能性を与えることを明示した。さらにウォーレス博士は、中緯度偏西風の半球規模の変動をデータから同定し、これが広範な地域に天候異常をもたらすこと、そして季節によっては成層圏循環の持続的変動と連動することを見出し、予測可能性の根拠となり得ることが示唆された。一方、ホスキンス博士は、上空の偏西風蛇行とそれが天気現象に及ぼす影響の理解等のために力学的保存量の活用を提唱し、今では研究・予報現場で広く受け入れられている。

 ホスキンス・ウォーレス両博士の上記の研究成果は、数値天気・天候予報の有用性を学界や政府機関に知らしめ、今日の気候研究や気象機関における気候変動監視と異常気象分析に不可欠な「大気再解析データ」の作成にも繋がった。両博士の研究業績は、全球各地の大気循環や降水域の変動、海洋との相互作用など、多様な時空間規模の現象の実態解明やそのメカニズムと予測可能性の理解における本質的な進歩に繋がり、天気・天候予報や異常気象分析の基盤となる気象学・気候力学の発展に大きな足跡を残している。

 以上より、ブライアン・ホスキンス博士とジョン・ウォーレス博士の功績は、「資源、エネルギー、環境、社会基盤」分野における貢献を称える2024年日本国際賞にふさわしいと考える。

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