Japan Prize Laureates

Laureates of the Japan Prize

2024 Japan Prize受賞者

  • 授賞対象分野
    医学、薬学
  • 授賞業績
    核内ホルモン受容体ファミリーの発見と医薬品開発への応用

【業績解説文】

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ロナルド・エバンス 博士

ロナルド・エバンス 博士

ソーク研究所遺伝子発現研究室 教授

  • 国籍:米国
  • 生年月日:1949年4月17日

授賞理由

 ヒトを含めた生体は神経やホルモンによって制御されている。インスリンなどのペプチドホルモンの受容体は細胞膜に存在し、ホルモンが結合すると細胞膜受容体は細胞内にシグナルを伝達する。一方、脂溶性のホルモンやビタミンは細胞膜を通過し、DNAのある細胞の核までたどり着くことが出来るが、その受容体は未知であった。ロナルド・エバンス博士は、世界で初めて糖質コルチコイド受容体遺伝子を単離し、その核内受容体としての構造と機能の解明に成功した。以降、甲状腺ホルモン受容体(TR)、レチノイン酸(ビタミンA)受容体(RAR)など多くの核内受容体の遺伝子クローニングを次々と行い、転写制御因子としてシグナル伝達を司る48種類の核内受容体スーパーファミリーの全体像を明らかにし、分子生物学と内分泌学の金字塔となる一大業績を成し遂げた。

 エバンス博士は、ERR(エストロゲン関連受容体)α/β、RXR(レチノイドX受容体)をはじめとする多くのオーファン受容体(リガンドが同定されていない受容体)を単離し、一部の内因性リガンドを決定した。また、RXRがRAR、TR、PPAR(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体)など他の多くの核内受容体とヘテロ二量体を形成して作用することを発見した。

 エバンス博士が発見し、構造と機能を解明した核内受容体スーパーファミリーは、様々な組織にあり、代謝、免疫、炎症、生殖、骨形成、細胞の分化・増殖など多様な生理作用を有し、多くの病気と関係することから、疾患のターゲットとして多くの薬が開発された。例えば、糖質コルチコイド受容体を介した作用基盤の解明により、免疫抑制薬ならびに各種感染症、関節リウマチ、喘息等に対する治療薬が開発され広く世界中で用いられるに至った点や、ビタミンA、D受容体の研究により脂溶性ビタミン類の作用解明を成し遂げ、白血病や骨粗鬆症、乾癬などの治療薬として広く用いられるようになった。また、エバンス博士は脂肪細胞分化と糖・脂質代謝に深く関連するPPARγの内因性リガンドを決定したのみならず、糖尿病の特効薬、チアゾリジン誘導体がPPARγの合成リガンドとして作用していることを解明した。さらに、エバンス博士は核内受容体を介した臓器・組織特異的作用に重要なSMRTなどの核内受容体共役因子のクローニングにも成功し、閉経後骨粗鬆症の代表的治療薬であるSERM(選択的エストロゲン受容体モジュレーター)や、ホルモン応答性がん(乳がん・子宮がん・前立腺がんなど)に対する抗がん薬の作用基盤解明や臨床応用にも多大な貢献をした。

 48種類の核内受容体スーパーファミリーの全体像を明らかにしたエバンス博士の比類ない学術的貢献度に加えて、エバンス博士の名前を抜きに核内受容体や核内受容体リガンドを分子標的とした創薬を議論することは全くできないほど、臨床医学、薬学を含めた社会的貢献度も卓越している。

 以上より、ロナルド・エバンス博士の功績は医学、薬学分野における功績を称える2024年日本国際賞にふさわしいと考える。

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