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山口 博司

同志社大学理工学部機械システム工学科・工学研究科
教授

エネルギー変換研究センター
所長

磁性流体の不思議な世界

骨子

  1. 磁性流体の誕生
  2. 磁性流体の発展(歴史)
  3. 磁性流体を用いた研究と応用
  4. 実用化された磁性流体とその具体例
  5. 磁性流体のこれから

要旨

 磁性流体とは、磁性を有した流体です。金属などの"固体"状態のものが磁石に引き寄せられる現象と同じように、磁性流体では"液体"状態で磁石に引き寄せられる現象が現れます。液体状態で磁石に感応するという特殊な性質は、ベース液に磁性微粒子(直径10[nm]程度)を分散させているため、磁石に磁性微粒子が引き寄せられることから起こる特異な現象であります。その磁性微粒子を安定分散させるために、磁性微粒子の表面に界面活性剤が吸着させております。
  磁性流体のはじまりは、1960年代にNASA(アメリカ国立航空宇宙局)で生まれました。磁性流体は無重力下ではロケットの液体燃料が「ふわふわ」浮いてしまい、燃料の補給が困難であることから、無重力下において燃料を自由自在に操ることを目的に作り出されました。実際に、利用されることはなかったのですが、現在までに磁性流体の持つ特殊な性質により、多くの科学者、技術者に大きな関心を持たれ、研究・開発されております。
  磁性流体は多分野で研究・開発され、いろいろな製品に実用化されております。実際の実用例は、磁性流体スピーカー、磁性流体回転軸シール、磁性流体ジェットプリンタ、磁性流体アクチュエータ、磁性流体比重差選別装置、磁性流体研磨、ダンパー、ディスクドライブシャフト、軸受などがあり、さまざまなところで磁性流体は活躍しております。
  磁性流体の研究は、磁性流体を用いた熱輸送装置、MHD発電、ボイド率及び気泡速度計測技術、熱磁気自然対流、粘弾性流体を用いたマグネットカップリング、磁気熱量効果など様々なものがあります。どの研究も実用化に向け、日々進展しております。近い将来、実用化されると信じております。
  このように、さまざまな実用化への可能性を秘めた磁性流体ですが、医療の分野でも活躍しており、これからも研究され、実用化されて行く事と信じております。実際に、用いられている例としましては、MRI(Magnetic Resonance Imaging:磁気共鳴画像)を用いた、がん細胞の検出方法に利用されております。磁性流体を造影剤に混入させることで、クッパー細胞が造影剤を異物とみなし、クッパー細胞内に取り込むため、MRIに黒く写ります。つまり、クッパー細胞がどの箇所に存在するかが明らかになります。クッパー細胞が存在しない箇所には、がん細胞が存在するため、がん細胞の発見に役立ちます。
  医療の分野での研究も多く行われております。具体的には、制がん剤などの薬物の投与方法に力を発揮すると期待されています。磁性流体は、油性ベースあるいは水性ベースの液体であるため、こうした制がん剤などの薬物を溶解することが可能であり、一種の強磁性を有したマイクロカプセルとなります。そのため、磁場を作用させることにより、この制がん剤などの薬物を体内の希望箇所に長時間作用させることが可能となります。さらに、副作用においても希望箇所付近に限定でき、その有用性が注目されています。これからも、磁性流体は医療の分野でも大きな役割を担っていくと考えております。
  このように、磁性流体の有する特殊な性質のため、広い分野で現在まで、多くの研究者あるいは開発者が関心を持ち、磁性流体は発展してきましたが、これからもさまざまな分野で活躍し、更なる発展を遂げ続けていくことと期待しております。

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