藤田保健衛生大学医学部放射線医学 教授
CTは「コンピュータ断層撮影」と言われるように、コンピュータとX線を使ってからだの中を見る検査です。発明されてから40年近く経っていますので、皆さんお馴染みでしょう。CTが無い時代は、からだの中を画像として調べる手段は限られており、しかもいずれも痛みや危険が伴う「侵襲的」な検査でした。CTの登場でそれまで見ることが難しかった部位も自由に観察出来るようになり、医療は激変しました。いまやCT無しの医療は考えられません。
この講演では、最初にCTのしくみをできるだけ判りやすく解説します。それとともに、CTの画像が何を現しているのかについても簡単に述べたいと思います。
CTは現在に至るまで絶え間なく進化し続けて来ました。最初は人体の断面(スライス)が見えるだけでしたが、ヘリカルスキャンという方法によって人間のからだを「かたまり」としてデータ化することが可能になりました。さらに、一度に撮れる断面の数を増やす(マルチスライス化)ことによって、秒単位で必要な部位を検査できるようになりました。これらのデータをもとに、コンピュータグラフィックスの技術を使って、人体の三次元画像を作り出すことも、今や普通に行われています。それどころか、その応用は医療以外の分野にも広く及び、タイヤからミイラまで、様々なものがCTの撮影対象となっています。
このように役に立つCTですが、全く問題がないわけではありません。その一つが放射線被曝です。数年前にある論文をきっかけに、社会的な注目を浴びました。これに関しては過大評価だったことが判っていますが、正しい使い方が重要なことはいうまでもありません。ここでは、CTの被曝のリスク評価と新しい被曝低減技術についても解説します。
いまひとつの問題は、放射線科医の不足です。増大するCTの台数に比べて、その結果を判読する放射線科専門医の数が圧倒的に足りません。その結果CTの有効活用ができないばかりか、被曝や医療費の面でも問題が起きています。簡単な解決法はありませんが、地道に放射線科医を増やす努力を続けて行くことが望まれます。
最後に最新のCTを紹介します。実は日本は、1970年代後半から、常にCT技術の進歩で最先端を走って来ました。その最新の成果が世界初の320列面検出器CTです。これを使えば、16cmの範囲をたった一回転で撮ることができます。つまり脳や心臓を一瞬(0.35秒)のうちに検査できるのです。このCTが凄いところは、これまで静止した状態しか判らなかったのが、動いている状態をそのまま画像として見ることを可能にしたところです。「かたち」だけではなく「はたらき」が判る最新の応用についても詳しく紹介します。