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渡部 雅浩

東京大学大気海洋研究所
准教授

異常気象と地球温暖化

要旨

 昨年の東日本大震災に続く福島第一原発の事故以来、国内では節電や脱原発依存の問題が深刻化しています。特に夏の電力事情は、その年の天候状況によって大きく変わりますので、「2010年のような猛暑になる確率は?」といった異常気象の理解と予測がこれまでにも増して重要になります。一方で、震災前の日本の原発推進の動向や、脱原発したときの自然エネルギーの活用といったエネルギー問題の背景には、火力発電によるCO2の排出をこれ以上増やせないという事情があります。グローバルな温暖化と異常気象というのは、どちらも地球の気候変動の一側面ですし、「温暖化がすすむと異常気象が頻発するの?」という疑問は多くの方が抱いたことがあると思います。そこで、それらを自然科学者の立場から分かりやすく解説したいというのがこの「やさしい科学技術セミナー」のねらいです。

地球の気候は、数時間から十万年まで、実にさまざまな時間スケールで変化します。それらを指すのに気象・天候・気候という3つの用語がありますが、おおまかに1週間より短い現象を気象、1ヶ月から季節程度の気象の平均状態を天候、それよりも長い時間スケールの大気や海洋の状態を気候、というように使い分けています。従って、豪雨、台風の頻発、ジェット気流の蛇行による猛暑や干ばつなどの気象現象と、100年くらいの時間でゆっくりと地球が暖まってゆく温暖化現象の間には、時間スケールにして大きなひらきがあります。近年の異常気象は、これら2つの要素が重なって生じるものです。2010年の日本の猛暑を例にとって気候のシミュレーションで調べてみると、そのうちの20~40%程度がいわゆる温暖化によるもので、それ以外は自然の「ゆらぎ」であったことが分かります。地球温暖化にともなう地表気温の上昇が地域的に比較的一様であるのに比べ、自然の「ゆらぎ」は年により地域により大きく異なります。例えば2010年の8月に地球全体で観測された気温は平年より0.34℃高かったのに対し、日本では2.25℃と7倍もの違いがあります。このような天候の変動を予測するには、全球的な海の水温の監視がたいへん重要です。

物理の法則に従って大循環モデル(あるいは気候モデル)という「仮想地球」をスーパーコンピュータ上に作り、それを使って将来の予測を行う。この点では、天気予報も温暖化予測も変わりません。ただし、天気予報では地球の「いま」の状態を観測してモデルに与えることが将来の予測にとって最も重要であるのに対し、温暖化予測では「将来実現しそうなCO2などの温室効果気体の濃度」をモデルに与えて将来の気候の変化を推測します。当然、将来の大気中のCO2濃度は今後の社会のあり方によって変わりますし、気候モデルが現実の地球を再現する能力にも限りがあります。これらの要因により、温暖化予測には例えば「今世紀末までの気温上昇は1.1~6.4℃」などという幅(不確実性といいます)がつきまといます。この不確実性をいかに減らすかが科学コミュニティの課題で、2013年刊行予定の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書に向けて新たな研究がおこなわれています。同時に、不確実性をともなう気候予測の情報をどのように温暖化に対するアクションに活かすかという問題は、社会のすべてのレベルで考えてゆかなければならないでしょう。

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