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平井 利博

信州大学 繊維学部長

進化する人工筋肉 ~ロボット、人工臓器、医療まで~

骨子

  1. はじめに ~ロボットと人工筋肉~
  2. "柔らかい人工筋肉"研究の歴史
  3. 刺激で変形するゲルの話
  4. 電気で動く柔軟なプラスチックの話
  5. おわりに ~生物を超える人工筋肉を目指して~

要旨

はじめに

 「人工筋肉」と聴くと何を連想しますか?おそらく、スターウォーズにも出てくる筋肉代替機能を持つパワーアシスト的なものでしょう。サイボーグとしての機 械的な駆動機構を連想する方が多いと思います。もちろん、この分野は実用化が始まっていると言って良いでしょう。そして、日本のロボット技術は世界を先導 するレベルにあり、工業用ロボットで世界をリードしていると言えるでしょう。私たちの身近にもアシモやアイボなどのようにこれらの技術が実用レベルにある ことを実感させる状況が生まれています。
 人工筋肉という言葉は、幹細胞を利用した再生医療工学による"本物の筋肉"を人工的に作るという意味と捉えられることがありますが、今日ここで紹介するの は実用化も遠くないと期待しているロボットにも使える柔軟な人工筋肉素材開発への取組みです。

今までとこれから

 今までの科学技術者による取組みの中で、SFを含めると人工筋肉の研究は長い歴史を持っています。しかし、現実味のある具体的な取組みが始まったのは比較的新しいと言えます。それは構想が実現されるには複合的な周辺の各種技術が集積することが必要だからです。一つの発見がデバイスとなって私たちの日常に入り込むには数多くの技術の進歩とそれらを必要とする状況が生まれなければなりません。
 今日の話の中では、最初に、どういったものが人工筋肉を目指して開発されつつあるかを紹介します。人工筋肉と言わない方が誤解を招かないかもしれませんが、要するに駆動素子として、すでに述べたような機械工学的な駆動システムが最も現実味のある大きなパワーを出すことのできるものです。二つ目が、今日の中心的な課題である柔軟な有機材料を用いる駆動デバイスへの試みの話です。そして、最後に、この話題の延長線上で目指すものとして生体中で駆動することできる本物の"人工筋肉"へのロードマップを考えてみたいと思います。
 さて、二つ目の話題にもう少し触れておきます。柔軟な有機材料を人工筋肉として活用しようとする最近の取組みの中で、特に、従来有効と考えられてこなかった汎用の素材も省エネルギー駆動材料として利用可能であることが明らかとなり、新たな駆動素子としての領域を拓きつつあります。駆動を引き起こす引金として、あるいは駆動エネルギーの形態も様々なものが検討されています。(1)化学的なエネルギー、(2)電気的なエネルギー、(3)磁気的なエネルギー、(4)熱的なエネルギーなどです。化学的なエネルギーというのは、濃度差(pH差を含む)や溶媒の種類を変えること(貧溶媒と良溶媒の交換など)を利用する方法です。電気的なエネルギーとは直流電圧の印加や、交流周波数の変化などを含んでいます。磁気的なエネルギーとは磁場の印加による駆動制御を指しています。熱的なエネルギーとは、直接温度を与えることや、電気的手法などで温度変化を誘起して駆動することを指しています。(5)生物の筋肉を分子レベルで再構築して駆動素子を作ろうとする試みも行われており、原理的に可能であることが確認されていますが、具体的な素子の作製はこれからです。この場合耐久性が最大の課題です。

おわりに

 柔軟材料を用いた低エネルギー消費型の駆動素子も開発をはじめて10年以上の歴史があり、基礎科学的な段階を脱しつつあるというところでしょうか。バイオ素材を用いた筋肉機能の再構築も注目されており、基本的な現象の再現には成功しています。遠くない将来、人工筋肉素材は、多方面で多様な使われ方をするものと期待できます。それは省エネルギー、優しい環境負荷などを考えた際、こうしたスマート(賢い)材料の活用は不可欠だからです。

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